東京高裁(平成4年3月6日)“コンクリート構造物におけるダクト貫通部の補強方法事件特許法第0条第1項(サイト注:現2項)は、同法第9条第1項の新規性喪失に関する例外を定めた規定であると解されるから、特許法第0条第1項にいう『特許を受ける権利を有する者が特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもって発表する』とは、特許を受ける権利を有する者が主体的にその発明について発表行為(公表行為)をしたものと社会通念上認め得る場合をいうものと解するのを相当とし、当該文書の発表の態様が社会通念上、その趣旨に当たらない場合は同法上の発表に該当せず、その規定の適用を受け得ないものというべきである。そして、特許を受ける権利の原始的取得者は発明者であるところ、発明者と研究集会において文書をもってする発表者とが一致しないことは往々にしてあることであるから、発明者自身が自ら発表した場合に限らず、共同研究につき発明者全員の氏名を共同研究者として明記し、そのうちの一部の者が発表した場合、あるいは単独研究であっても発明者名を明記し、発明者の名前において発明者以外の者が発表した場合には、特許を受ける権利を有する者が発表したものというべきである。これに対し、発明者の名前が研究者名として文書に明記されないまま発明者以外の者が発表した場合には、特許を受ける権利を有する者が発表したものとはいえない」、「原告は、特許法第0条第1項にいう『発表』は、特許を受ける権利を有する者本人自身が、発表者として研究発表会等で講演する必要はなく、発明の発表の許諾をするだけでよいのであって、発明の発表を監督管理できる状態であれば、公表行為を主体的にしていると社会通念上認められるものである旨主張する。しかしながら『発明の発表を許諾する』ことは、主体的に発表したことに当たらないことは明らかであり、また、前記のとおり、発明者自らが発表しないにもかかわらず、なお主体的に発表したといい得るためには、発明者の名前において発表したときのように、発明者が自ら発表したものと同視し得る場合でなければならず、特許を受ける権利を有する者が、単に『発明の発表を監督管理できる状態』にすぎない場合には、特許法第0条第1項にいう『発表』に当たらないことは明らかである」と述べている。

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