東京高裁(平成6年10月26日)“クリップ事件”は、「原明細書の特許請求の範囲の記載をそのままとし、発明の詳細な説明及び図面から接着剤等の記載及び図面を削除したにとどまる本件訂正は、特許請求の範囲の減縮に当たらない訂正というほかはなく、特許法126条1項1号の要件に違反するものといわなければならない。もし、原告が真実、接着剤等を用いる固定部材を備えたクリップを本件発明のクリップから除外するために、特許請求の範囲の減縮を目的として原明細書の訂正をしようとするならば、特許請求の範囲の記載自体にこれを明示し、あるいは、発明の詳細な説明中において、本件発明における固定部材には接着剤等を用いる固定部材は含まれない旨を明文をもって規定し、訂正明細書に接する当業者に疑義の生じないようにするべきであり、また、これをすることに格別の困難性は認められないのに、これをせず、漫然と上記のような訂正に及んだことは、訂正審判を認めた特許法126条の規定する趣旨に反するものといわなければならない。けだし、同条が訂正審判制度を設けた趣旨は、明細書の特許請求の範囲の記載が広義に過ぎ、そのままでは公知技術を包含する瑕疵があるとして、特許無効の原因がある等と解されるおそれがある場合、あるいは、明細書又は図面に誤記や明瞭でない記載があって、そのままでは疑義が生じ、紛争の原因となる等のおそれがある場合に、主として特許権者の救済のため、不備な記載を特許権者が自発的に取り除いて、このような瑕疵のない明瞭な記載からなる明細書及び図面とするためであると解するのが相当であり、同条が、特許権者と第三者との利害の調和という理念の下にあることに照らせば、特許権者の請求に係る訂正が、同条1項各号のいずれを目的とするかが一義的に明らかでなく、これらに疑問が生ずるような訂正は、本来これを認めるべきではないからである」と述べている。 |