東京高裁(平成2年5日)“6本ロールカレンダーの構造事件発明の内容が、発明者のために秘密を保つべき関係にある者に知られたとしても、特許法9条1項1号にいう『公然知られた』には当たらないが、この発明者のために秘密を保つべき関係は、法律上又は契約上秘密保持の義務を課せられることによって生ずるほか、・・・・社会通念上又は商慣習上、発明者側の特段の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待される場合においても生ずるもの・・・・というべきである。なぜなら、・・・・取引社会において、他者の営業秘密を尊重することは、一般的にも当然のこととされており、まして、商取引の当事者間、その他一定の関係にある者相互においては、そのことがより妥当するものであって、・・・・また、成約等に至る商談等の過程が迅速に、かつ、流動的に推移することが少なくない商取引の実際において、発明に関連した製品、技術等が商談等の対象となることになった都度、発明者側において、その発明につき秘密を保持すべきことをいちいち相手方に指示又は要求し、相手方がそれを理解したことを確認するような過程を経なければ、当該発明に関連した製品、技術等の具体的な内容を開示できないとすれば、取引の円滑迅速な遂行を妨げ、当事者双方の利益にも反することになったからである。殊に生産機器の分野において、その製造販売者と需要者とが新規に開発された技術を含む製品につき商談をする際には、当事者間において格別の秘密保持に関する合意又は明示的な指示や要求がなくとも、需要者が当該新技術を第三者に開示しないことが暗黙のうちに求められ、製造販売者もそうすることを期待し信頼して当該新技術を需要者に開示することは、十分あり得ることであるから、このような場合には、需要者は、社会通念上又は商慣習上、当該新技術につき製造販売者のために秘密を保つべき関係に立つものといわなければならない」と述べている。

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