東京地裁(平成2年4月7日)“芳香族カーボネート類の連続的製造法事件プラントはその規模や内容に応じて個別に設計・建設され、基本設計がされれば、プラントの建設費を算出したり、土木工事及び機械工事を行うのための詳細設計をすることができるところ、平成元年2月に基本設計が一応完成し、三井造船から建設費見積書が提出された後に被告と三井造船との間で基本設計や建設費見積りの修正などがされ、建設予算が承認されて詳細設計が着手されたが、被告と三井造船との間では基本設計や建設費見積りについて多少の変更があり得ることが当然の前提とされており、基本設計や建設費見積りの修正もプラント拡張を想定した部分や故障に備えた機器を削除することなどにとどまり、DMC法DPC技術の導入そのものが見直されるということはなかったこと、本件プラントの建設費は総額約200億円と巨額であるが、被告が平成元年2月の段階でGE及び三井造船に支払った金額(300万ドル及び1億1000万円)も絶対額として決して少ないものではないこと、これまでプラント建設に数多く携わってきが、その証人尋問において、プラント建設が計画され基本設計の段階に入りながらプラントが建設されなかった例を知らない旨供述していることなどを併せ考えれば、被告は、本件各発明の優先権主張日である平成元年2月8日の時点において、既に本件プラントにおいて先発明を含むDMC法DPC技術を即時実施する意図を有していたというべきであり、かつ、その即時実施の意図は、遅くとも被告がGEとの間で、GEとエニケムとの間の実施許諾契約を被告に拡張する旨の契約を締結し、GEに対しその対価として300万ドルを支払った時点(サイト注:平成元年2月7日)において、客観的に認識される態様、程度において表明されていたものというべきである」、「原告は、本件において、被告が即時実施の意図を有していたというためには、少なくとも被告の取締役会が三井造船との間でDMC法DPC技術を実施するためのプラント建設請負の本契約を締結することを決議したことを要するものであり、また、この意思が客観的に認識される態様、程度において表明されていたというためには、被告と三井造船との間で右本契約を現に締結されたことが必要であると主張する。しかし、企業における意思決定は、常に取締役会決議によってなされるものではなく、実質的な意思決定がされた上で事後的に取締役会の承認を得るということも、実際上数多く行われているものであって、即時実施の意図の有無についても、形式的ではなく実質的な意思決定があったかどうかによって判断すべきであり、また、先使用による通常実施権の成立について、・・・・事業設備を有するに相当する状態が必要であると解すべき理由はない。したがって、原告の主張は採用することはできない」、「したがって、被告は、本件各発明の優先権主張日である平成元年2月8日の時点において、先発明について現に実施の事業の準備をしていたものと解するのが相当であり、被告方法について特許法9条所定の先使用による通常実施権を有するというべきである」と述べている。

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