東京高裁(平成2年4月7日)“悪路脱出具事件証拠・・・・及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人(サイト注:実用新案権者)は、昭和2年ころから被控訴人器具を製造、販売していること、被控訴人は、原材料を下請け業者であるオオヤマに提供して被控訴人器具を製造させ、これを自動車用品の取扱代理店に販売していたこと、被控訴人器具は、主として、被控訴人の系列のガソリンスタンドにおいて販売されており、小売価格は1セット当たり3500円であったこと、被控訴人器具は、ガラス繊維で補強されたポリプロピレン樹脂が用いられているため、ポリエチレン製の控訴人器具や小原産業器具に比べて丈夫なものとなっており、反面、小売価格が割高となっていたこと、・・・・が認められる」、「他方、証拠・・・・によれば、小原産業は、被控訴人から本件各考案について通常実施権の設定を受けて、平成3年から、本件各考案の実施品である小原産業器具を製造し、主にホームセンター等の量販店で販売してきており、小売価格は1セット2680円であったこと、小原産業器具は、単純にポリエチレンのみを原材料として使用して成形したものであるため、強度の点で被控訴人器具より劣っていたことが認められる」、「以上によれば、被控訴人は、被告三甲が平成5年4月2日から平成8年4月0日までの間に製造販売した控訴人器具7万0385セットについて、・・・・小原産業と競合関係にあった点をとらえれば、被控訴人が被控訴人器具を販売することができなかった事情が存するものと認められ、その販売割合は、特段の事情の認められない限り、原則として被控訴人の自認する1対1であると認めるのが相当である。しかしながら、右に認定した両器具の流通経路、価格、品質等の具体的事情を総合的に考慮すると、小原産業器具の方が、被控訴人器具に比べて相当に多く、比率で表わせば、少なく見積もっても、控訴人器具の2倍程度、販売されたものと推測するのが合理的であるから、その限度で、前記1対1の販売割合を変更すべき特段の事情が認められ、被控訴人は、多く見積もっても、小原産業器具の2分の1の割合(2万3462セット)の被控訴人器具しか販売することができなかったものというべきである。なお、推測される販売数量は、小原産業器具について『少なめに、被控訴人につき『多めに』みることによって定められるべきであることは、実用新案法9条1項の規定に照らして明らかというべきであり、この点に関して原判決を非難する控訴人らの主張は失当である」、「控訴人らは、仮に控訴人らの販売がなかったとしても、これによって販売の増えるのは、控訴人器具とホームセンターで競合関係にあった小原産業器具のみであって、被控訴人系列のガソリンスタンドで販売されていた高価格の被控訴人器具の販売は増えなかったはずであると主張する。しかしながら、小売価格3500円の被控訴人器具と小売価格2680円の小原産業器具とを比較した場合、前者が、ガラス繊維で補強されて丈夫な製品であること、需要者が自動車の運転者であることを考慮すると、必ずしも、需要者のほとんどが、より安価な小原産業器具を選択するとはいいがたく、右のような需要者は、この種器具を求めて、販売先がホームセンターであるか被控訴人系列のガソリンスタンドであるかにかかわりなく訪れ、自己の選択に従い購入することも少なくなかったであろうと考えられるから、被控訴人器具との競合関係を否定する控訴人らの主張は採用できない。また、控訴人らは、被控訴人器具と小原産業器具の実際の販売数量について明らかにさせることもないままに、被控訴人器具の販売数量を小原産業器具の2分の1であると認定をした原判決は誤っていると主張する。しかしながら、前記のとおり、実用新案法9条1項では、被控訴人器具と小原産業器具の販売割合は、特段の事情のない限り、被控訴人の自認する1対1と認定すべきものなのである。そして、右特段の事情についても、小原産業は、被控訴人器具より多くの小原産業器具を販売することができたであろうと推測させる事情はあるものの、少なくとも被控訴人器具の2倍程度の数量の小原産業器具を販売することができたであろうとしか認められないことは、前記のとおりである。同認定を覆し、小原産業器具がより多く、被控訴人器具がより少なく販売されていたはずであると主張するのであれば、控訴人らは、それを裏付ける事実を立証すべきである。しかし、そのような立証はない。控訴人らの主張は、失当である」と述べている。

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