東京地裁(平成12年7月18日)“ヒンジ事件”は、「原告は、昭和60年ころから本件発明の実施品を自己の製品として我が国の大手システムキッチンメーカーに対し販売し、他方、被告も、被告各製品を我が国の大手システムキッチンメーカーに対し販売していたものであるところ、被告各製品なくしては、被告は、右大手メーカーへの販売を受注できなかった蓋然性が高いと認めることができる。また、ヒンジアームとの脱着が極めて容易な弾性スナップ嵌め固定装置を備えたヒンジを提供するという本件発明は、従来技術において未解決であった課題を解決したものとして画期的な発明であり、加えて、被告は、被告各製品の製造を始めた平成8年当時において本件発明以外にもこれと同様にワンタッチで取り付けられる機能を有する技術が存在したにもかかわらず、あえて本件発明を実施することを選択したものと認められること・・・・などに照らせば、本件発明は、技術的観点から見て極めて評価の高いものであったということができる。さらに、平成10年・・・・特許法改正によって置かれた現行の特許法102条3項は、侵害を発見された場合に支払うべき実施料相当額が誠実にライセンスを受けた者と同じ実施料額では、事前にライセンスを申し込むというインセンティブが働かず、侵害行為を助長しかねないという右改正前の特許法102条2項に対する批判を受けて、特許権侵害に対する民事上の救済制度の見直しを図った規定であって、同項の『その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額』の規定から『通常』を削除した上、同条3項に移されたものであるところ、実際、ライセンス契約では、被許諾者において、発明の実施品の販売数量の多寡にかかわらず一定金額(最低保証料)を支払わねばならず、一定の事由のあるときを除いて契約を解除できず、また、万一当該特許が無効とされた場合であっても支払済みのライセンス料の返還を求めることができないなどの制約を契約上負担させられるのが通常であるのに対して、特許権侵害の場合には、侵害者は、これらの契約上の制約を負わないという点だけを見ても、既にはるかに有利な立場に立つものである。そして、このことは、本件の被告においても、当てはまるところである。以上の諸点を総合考慮すれば、本件において被告による本件発明の実施行為に対して原告の受けるべき金銭の額に相当する額は、被告各製品の合計売上高の約10パーセントに相当する3700万円と認めるのが相当である」と述べている。 |