東京高裁(平成3年1日)“容量可変型斜板式圧縮機事件原告が、本件審判において、本件特許の無効事由として、本件訂正の違法をも主張したことが認められるところ、本件審決がこの無効事由の主張に対する判断を欠いていることは明らかであるから、本件審決には結論に影響を及ぼすべき判断遺脱の違法があるものといわざるを得ない」、「被告は、本件審決がそれぞれの無効事由について別々に判断を示すとしても、同じ内容を繰り返すことなることは明白であり、これを繰り返すことに格別の意味はないから、・・・・弁駁書に、新たな無効事由の主張が形式的にあったとしても、実質的に本件審決が当該主張に対する判断を遺脱したということはできない旨主張する。しかしながら、特許法123条1項各号が特許無効の審判を請求することができる事由を列挙するに当たって、特許が同法9条の規定に違反してされたとき(同法123条1項2号)と、特許の願書に添付した明細書又は図面の訂正が同法126条4項(サイト注:現7項)の規定・・・・に違反してされたとき(同法123条1項8号・・・・)とを、特許無効の事由として別々に掲げているのであるから、特許無効の審判の無効事由としてこの両者が主張された場合に、各主張に対する判断を経ずにした審判請求不成立の審決には、結論に影響を及ぼすべき判断遺脱の違法があるというべきである。このことは、明細書又は図面の訂正が同法126条4項の規定に違反してされたとする無効事由に係る具体的な原因事実が、訂正後の発明が同法9条2項の場合に該当するがゆえに特許出願の際独立して特許を受けることができなかったというものであり、かつ、その同法9条2項の場合に該当するとの主張の内容が、特許が同法9条の規定に違反してされたとする無効事由に係る具体的な原因事実として主張された内容と同一であったとしても変わりがなく、この場合に、後者の無効事由が存在しない旨判断したからといって、当然に前者の無効事由が存在しない旨の判断をしたことになるものと解することはできない。なぜなら、特許無効の審判の審決が確定し、登録されたときには、同一の事実及び同一の証拠に基づく再度の審判請求をすることができないとの効果を生ずるものであり(同法167条、また、特許無効の審判請求が成り立たないとした審決の取消訴訟においては、審判請求人である原告は、当該審判の手続において審理判断されなかった無効原因については、審決を違法とする事由として主張することができない(最高裁判所昭和1年3月0日・・・・判決・・・・)ことにかんがみれば、特許無効の審判の審決がその判断の対象とした無効事由は、審決自体において明示され、一義的に明確であることを要するものというべきだからである。したがって、被告の上記主張は採用することができない」と述べている。

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