東京高裁(平成3年6日)“電子ミシン事件引用発明に周知技術Aを適用すれば、相違点@ないしCに係る本願発明の構成となることは明らかであり、この点については、原告も格別争っていない。そこで、問題となるのは、引用発明に周知技術Aを適用するという動機付けがあるかどうかである」、周知技術Aは、銀行の自動取引装置、産業用ロボット、電卓、電子機器等に応用されている技術であるものの、応用可能な範囲は、上記分野に限定されるものではなく、広範な技術分野に応用可能な技術であることが明らかである。そうすると、周知技術Aを電子ミシンに適用することを妨げる何か特殊な事情が認められない限り、前者を後者に適用してみようという発想を得ることは、当業者にとって、容易なことであるというべきである。ところが、上記特別の事情は、本件全証拠を検討しても見いだすことができないのである」、原告は、審決が周知技術Aの認定の前提とした文献には、当該技術をミシンという技術分野に適用できるということは記載も示唆もされていないし、ましてやミシンの機枠というような限られた狭い場所に配置するという技術思想はなく、ミシンの模様選択装置に適用できるというようなことは示唆されていない旨主張する」、原告の主張は、引用発明や本願発明の技術を、ミシンという独自の技術分野、更にはミシンの機枠という特殊な技術分野のものとしてのみ理解し、それが機械、電気、電子に係る他の分野の技術との間に何らの関連性も持たないものとしようとするに等しく、失当というほかない・・・・。なお、・・・・原告従業員の手になる『マイコン応用/実用システム設計シリーズM−家庭用ミシン−』との表題の論文・・・・が『電子技術』という電子技術一般を対象とする雑誌に掲載されているものであることが認められ、このことも、ミシンが、電気、電子に係る分野の技術との間に何らの関連性も持たないとはいえないことを示す一例となるものというべきである」と述べている。

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