東京高裁(平成3年7日)“プロモーター配列を用いた小胞子形成の制御事件単子葉植物を含む植物の生命体としての生殖行為に関わる生命活動という複雑な機構を持つ活動の操作を目的とする遺伝子組換え技術である本願第1発明については、本願明細書の発明の詳細な説明の欄に、各工程につき、抽象的な手法が記載されていたとしても、それをもって直ちに当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明が記載されているということはできないものというべきである。なぜなら、各工程につき、具体的な手法としてではなく、抽象的な手法として成功の可能性がある方法が存在するとしても、現実の成功例が知られていない以上、当業者は、成功するか否かも分からない工程について、本願明細書に具体的な手法が開示されないままの状態で試行錯誤を繰り返さなければならないことになり、このようなとき、本願明細書に特許権という独占権を与えるに値する開示がなされているとすることは、明らかに不合理であるというべきであるからである」、「本願明細書の発明の詳細な説明には、少なくとも、工程a、c、dについて、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、本願第1発明が記載されているということができない。そして、同発明が特許法6条4項に規定する要件を満たすためには、aないしdの各工程のいずれについても、本願明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されている必要があることは、論ずるまでもないところである。また、特許法6条4項に規定する要件を満たさない発明は、同条5項、6項の要件を満たすか否かにかかわらず、特許を受けることができないことは、これまた当然である」と述べている。

特許法の世界|判例集