東京高裁(平成4年0月1日)“新規芳香族カルボン酸アミド誘導体の製造方法事件被控訴人菱山は、遅くとも平成2年6月から平成5年1月8日までにトラニラスト製剤であるチタルミン錠を710万9000カプセル製造して、被控訴人ニプロに譲渡し、被控訴人ニプロはこれを旧菱山販売に譲渡し、旧菱山販売はこれを第三者に譲渡した。上記認定の製造数量の中には、本件特許権存続期間内に製造され、その後、譲渡されたものも一部に含まれる。しかし、本件特許権の存続期間内に製造されたトラニラスト製剤は、本件特許権を侵害するものであるから、これが本件特許権存続期間後に譲渡された場合であっても、当該譲渡によって失った控訴人リザベンの市場機会の喪失は、本件特許存続期間内の侵害行為と相当因果関係にある損害であると認められる。したがって『特許権者が・・・・その侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において』は、特許権存続期間経過前に製造され特許権存続期間経過後に譲渡された物も『その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したとき』に含まれるものと解すべきである。すなわち、特許法102条1項にいう譲渡数量には、製造の時点で侵害の行為を組成した物であれば、その物の譲渡行為の時点においては特許権の存続期間経過により侵害行為を構成しなくなっている物も含まれると解すべきである」、「被控訴人らは、被控訴人らにより、本件特許権存続期間中に製造され、存続期間終了後に販売されたトラニラスト製剤については、そのトラニラスト製剤の数量分だけ特許製品の販売数量が減少したとの経験則は働かないので、特許法102条1項の規定は適用されない、と主張する。しかし、本件においては、本件特許権存続期間内にトラニラストを適法に製造することができる第三者の存在を認めるに足りる証拠がない以上、本件特許権存続期間を経過した後に、初めてトラニラストの製造を開始せざるを得ず、そのためトラニラスト製剤の販売を開始するに至るためには、相当の期間が必要である、と考えるべきであり、本件特許権存続期間内に製造されたトラニラスト製剤については、本件特許権存続期間終了時から相当期間が経過した後に販売されたことが証明されない限り、そのトラニラスト製剤の製造分だけ特許製品の販売数量が減少したと認めるのが相当である」と述べている。

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