東京高裁(平成14年10月31日)“新規芳香族カルボン酸アミド誘導体の製造方法事件”は、「被控訴人ニプログループ(サイト注:侵害者)は、特許法102条1項ただし書に該当する事情であるとして、次のとおり主張している。@平成2年ないし平成4年当時のいわゆるジェネリック医薬品(後発品)の売上げは5%程度であり、リザベンの売上げはこれを大きく上回る割合で減少しているのであるから、リザベンの売上げの減少は、被控訴人らのトラニラスト製剤の販売によるものではない。Aトラニラスト製剤の同効薬のザジデン、アゼプチン、セルテクト等が、リザベンの売上の減少に影響を与えた。B控訴人は、平成4年から、ドメナンを発売している。このドメナンは、控訴人のリザベンと市場が競合しており、控訴人の営業活動の重点がドメナンに移ったために、リザベンの売上げが減少したのである」、「しかし、被控訴人ニプログループが主張するところは、次に述べるとおり、いずれも特許法102条1項ただし書きの『譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるとき』には当たらず、上記主張はすべて理由がない。上記@については、仮に、リザベンの売上げの減少が、被控訴人らの販売したトラニラスト製剤の販売量を大きく上回っていたとしても、そのことからは、リザベンの売上げの減少については他の要因も関係している、ということはいえるとしても、これは被控訴人らによるトラニラスト製剤の販売とは無関係のことである、といえるわけではないことは明らかである。被控訴人ニプログループの上記主張は失当である。上記Aについては、被控訴人ニプログループが主張する同効薬のザジデン、アゼプチン、セルテクトは、トラニラスト製剤とは化合物を異にするものであり、その薬剤としての性質も薬効も相違するものである・・・・。同効薬は、その作用・副作用、使いやすさ等を総合的に勘案して、特許の対象となっている製剤(以下「特許製剤」という。)と同等ないしこれに匹敵する効能をもち、市場において特許製剤と競合関係にある場合には、当該特許の侵害品により、特許製剤のみならず、当該同効薬も、同様にその販売量の減少をきたす場合もあり、このような同効薬の存在が主張立証された場合には、特許法102条1項ただし書きに相当する場合も生じ得るということはできるものの、本件については、被控訴人ニプログループは、単にリザベンとの同効薬があると主張・・・・するのみであり、それらの薬剤が上記のような意味における同効薬かどうかについては、何ら主張立証するものではない。したがって、被控訴人ニプロらの上記Aの主張も、採用することはできない。上記Bについては、控訴人の新薬である『ドメナン』もトラニラスト製剤とは化合物を異にするものであり、その性質も薬効もリザベンとは相違するものであることからすれば、この新薬の存在をもって、直ちに特許法102条1項ただし書きに該当する事情の立証があったということができないことは、当然である。また、新薬の販売に営業活動の重点が移ることはよくあることであるとしても、リザベンは控訴人の貴重な主力製品であることからすれば・・・・、リザベンの売上げが減少するのも顧みずに、控訴人の営業活動の重点をドメナンに移すということも考えにくいことであり、被控訴人ニプログループの主張は、この点でも採用することができない」と述べている。 |