東京高裁(平成4年40日)“遊離カルシウムイオン濃度測定法事件本件特許の出願経過に照らすと、出願人は、拒絶理由通知に対する意見書・・・・の中で、補正後の特許請求の範囲に記載された発明が引用例記載の発明とは区別され、新規性及び進歩性を有するものであることを説明して『綿撒糸を製造した後、これら綿撒糸の1つ又は複数を注射器内に挿入します。・・・・本願発明におけるこれらの多くの工程の組合わせは公知技術に見出すことはできません。』、『(引用例2には)綿撒糸を最初に凍結工程により製造し、次いで血液試料を採取(する)ために注射器中に挿入し、配置することを示唆する教示も全くありません』等と主張していたことが認められる。綿撒糸を製造した後、これを注射器内に入れる旨の説明は、意見書中に繰り返し表れており、説明の趣旨自体は明確であって、不用意な言明とも認められないところ、その内容は、これを客観的にみると『綿撒糸を製造した後、・・・・注射器内に挿入する』という工程の組合わせないし『順序』が公知技術との相違点であるとして、本件発明の新規性及び進歩性を説明しているものであり、上記工程ないし順序が本件発明の特徴的部分であることを言明したものであると理解される。そして、出願人が特許請求した発明の特徴について、出願手続中で提出した意見書等において自ら説明し言明した事項は、通常、特許請求された発明の内容を、出願人自身の認識に基づいて、最も端的に表現したものということができるのであるから、均等論の適用が問題となる場面で、当該発明の特徴的部分がどこにあるかを把握するに当たっては、これらの言明を参酌して、出願に係る発明の特徴的部分を出願人の説明どおりのものとして理解することが、一般に合理的であると考えられる。本件においては、意見書の記載内容自体に照らしても、拒絶理由通知で指摘された公知技術との関係においても、特許出願手続の過程における出願人自身の言明に反して、綿撒糸を製造した後注射器内に入れるという『順序』が発明の特徴的部分ではないと理解すべき事情は認められない。そうすると、本件発明・・・・において、綿撒糸を製造し、その後に綿撒糸を注射器内に入れるという工程ないし順序は、本件発明・・・・を特徴づける発明の本質的部分であると解するのが相当であり、この工程ないし順序を踏まない被告方法を本件発明・・・・と均等のものということはできない」と述べている。

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