東京地裁(平成14年6月27日)“酵母菌による異種構造のタンパク質の発現事件”は、「法112条の2第1項にいう『その責めに帰することができない理由』(サイト注:同条項は平成23年の改正によって『正当な理由』に緩和された)とは、これが本来の特許料の納付期間の経過後、さらに6か月間の追納期間が経過した後(法112条1項参照)の特許料納付という例外的な取扱いを許容するための要件であり、その文言の国語上の通常の意味に照らしても、これと同一の文言である法121条2項の『その責めに帰することができない理由』と同様、天災地変等のように、通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってなお追納期間内に納付できなかった場合のことを意味するものと解するのが相当である。この点に関し、原告は、同文言は、米国特許法、欧州特許条約の規定などと同様に、故意でなかった場合や相当な注意を払った場合を指すものと解すべきである旨を主張するが、パリ条約5条の2第2項の規定に照らしても、特許権の回復についてどのような要件の下でこれを容認するかは各締結国の判断にゆだねられているものであって、米国特許法や欧州特許条約の規定とわが国の法の規定とを同一に解釈しなければならないというものではない」、「特許料の納付を行う代理人弁理士は、その職務として平成6年改正法の内容について承知しているはずであるから、本件特許権の特許料の納付を行う原告の代理人弁理士としては、個々の特許権について、平成6年改正法が適用されるのかどうかについて考慮したうえで、特許料の納付につき万全の管理をする注意義務があるというべきであるところ、本件においては、・・・・代理人弁理士において、通常の注意力を有する者が万全の注意を払ってもなお追納期限内に納付できなかった事情が存在するとは到底いうことができない・・・・(原告の代理人弁理士としては、平成10年5月の設定登録時に第4年分の特許料の納付期限を確認することも容易にできたはずであるのに漫然納付期間を徒過し、さらに6か月間の追納期間をも徒過したものであって、その過失は明らかといわざるを得ない。)。また、原告は、代理人弁理士の過失を本人の過失とみることはできないと主張するが、代理人は本人により選任され、本人の委託を受けて本人の名をもって特 許料等の納付行為を行うのであるから、このような代理人が過失により追納期限を徒過した場合に本人がその責めを負うのは当然であって、たとえ本人に過失がなかったとしても法112条の2第1項の『その責めに帰することができない理由』がある場合には該当しない」と述べている。 |