東京地裁(平成14年8月27日)“細粒核事件”は、「平成元年当時被告会社が抱えていた課題(真球度の高い細粒核を高収率で得ること)の解決のためには、撹拌造粒法における最適な実験条件を見つけ出すことが重要であり、当時公知であった主薬と賦形剤を混合して細粒核を製造する方法と、寺下論文に開示された真球度の高いコーティング用細粒核を高収率で得る方法とを組み合わせて主薬を含む真球状の細粒核を製造しようとすることは、それ自体が発明と呼べる程度に具体化したものではなく、課題解決の方向性を大筋で示すものにすぎない。したがって、原告が上記着想を得たからといって、本件発明の成立に創作的な貢献をしたということはできず、原告を共同発明者と認めることはできない」、「一般に、発明の成立過程を着想の提供(課題の提供又は課題解決の方向付け)と着想の具体化の二段階に分け、@提供した着想が新しい場合には、着想(提供)者は発明者であり、A新着想を具体化した者は、その具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り、共同発明者である、とする見解が存在する。上記のような見解については、発明が機械的構成に属するような場合には、一般に、着想の段階で、これを具体化した結果を予測することが可能であり、上記の@により発明者を確定し得る場合も少なくないと思われるが、発明が化学関連の分野や、本件のような分野に属する場合には、一般に、着想を具体化した結果を事前に予想することは困難であり、着想がそのまま発明の成立に結び付き難いことから、上記の@を当てはめて発明者を確定することができる場合は、むしろ少ないと解されるところである。本件についても、上記のとおり、主薬と賦形剤を混合して細粒核を製造する方法と寺下論文に示された方法を組み合わせるという着想は、それだけでは真球度の高い粒核を高収率で得られるという結果に結び付くものではなく、また、当該着想自体も当業者であればさほどの困難もなく想到するものであって、創作的価値を有する発想ということもできないのであるから、原告をもって、本件発明の共同発明者と認めることはできない」と述べている。 |