東京高裁(平成15年12月25日)“内燃機関のフライホイール事件”は、「本件発明と甲5発明との相違点が、・・・・本件発明においては、『フライホイールを構成する弾性板の軸方向剛性を600kg/mm〜2200kg/mmとした』ものであるのに対し甲5発明の『金属板6』は『比較的剛性の低い』ものであるものの、その値が明示されていない点・・・・であることは、当事者間に争いがない。そうである以上、両発明間に同一性(実質的同一性)があるか否かは、甲5発明の金属板6の『比較的低い』とされている軸方向剛性が、本件発明の弾性板の軸方向剛性の数値範囲である600kg/mm〜2200kg/mmの範囲に含まれるか否か、によって決まる事柄であり、それ以外ではあり得ないのである。本件発明及び甲2ないし甲6発明は、いずれも、クランクシャフトに固定される回転方向の剛性が大きな弾性板と、この弾性板に固定される質量体とからなる内燃機関のフライホイールにおいて、クランク軸系の曲げ振動に起因して生じる異音を抑制するものであり、このようにして異音を抑制することが周知技術であることは明らかである。上記の周知のフライホイールにおいて、クランク軸系の曲げ振動に起因して生じる異音を低減させるには、クランク軸系の曲げ剛性を大幅に低下(又はなるべく大きく低下)させて、不具合発生時(異音発生時)の強制振動数(約200〜400c/s)より、なるべく大きく外すことが有効であるということは、周知の事項であると認められ・・・・、上記の周知のフライホイールにおける『弾性板の剛性の低さ』によって『クラッチ切れ不良』を生ずることも周知の事項であると認められる。上記周知の事項によれば、弾性板の軸方向剛性の剛性が低いほど異音の抑制効果が大きいこと、下限の数値については、同じく周知事項である、剛性が低すぎるとクラッチ切れに悪い影響が生じるため、できれば大きい方が無難であることは、当然の帰結であるというべきである。本件発明における弾性板の軸方向剛性の数値である『600kg/mm〜2200kg/mmの剛性』は、その数値範囲の広さからみて、それが上記周知の事項から導き出すことのできない特別な数値範囲であると解すべき特別の事情が認められない限り、上記周知の事項から当然に導かれる数値範囲であると解するのが相当である。本件明細書・・・・中には、本件発明における弾性板の軸方向剛性の数値範囲が上記周知の事項から導き出すことのできない特別な数値であることをうかがわせるような記載はなく、本件全資料を検討しても、他に、上記特別の事情があることを認めるに足りる証拠はない・・・・。本件発明における弾性板の軸方向剛性が上記のようなものである以上、当業者がフライホイールを製作する場合には、上記周知の事項に基づき、異音を発生させず、かつ、クラッチ切れ不良などの不具合を発生させないようにすることによって、結果として、少なくとも大部分の場合、上記数値範囲に含まれる剛性の弾性板を製作することになるものというべきである。甲5発明の『比較的剛性が低い金属板』についても、少なくともその大半において、その剛性の範囲は、当然に『600kg/mm〜2000kg/mm』の範囲に入ることになる。そうである以上、本件発明と甲5発明とは、実質的に同一である」と述べている。 |