東京高裁(平成15年4月8日)“ドア用電気錠事件”は、「本件考案は、・・・・いずれもドアの内部に収納される電池によって稼働することができるアクチュエータと制御部とを備えたドア用電気錠に係る考案であるから、当然のこととして、本件明細書の考案の詳細な説明には、このようないずれも電池によって稼働することができるアクチュエータと制御部につき、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その構成等を記載しなければならない。しかし、本件明細書には、アクチュエータとその伝達機構については、・・・・考案の詳細な説明の記載では、本件考案に適用することができるソレノイドとその駆動力伝達機構が存在するか自体がまず明らかでなく、仮に客観的には存在するとしても、当業者は、それを既存の技術の中から探し出してこなければならないのであり、当業者が本件考案を容易に実施をすることができる程度に記載されたものということは困難である」、「もっとも、このようなソレノイドとその伝達機構とが、明細書の詳細な説明に記載されていなくとも、当業者にとって容易にその実施をすることができるような技術常識に属する事項であるとすれば、その記載を簡略にすることが許容され、少なくとも、明細書の記載不備を理由に実用新案登録を無効とすることはできない、ということができる」、「本件考案は、上記のようなものである以上、・・・・これらのソレノイド及びソレノイドの駆動力をボルトに伝達してボルトを出し入れする伝達機構が、ドアの内部に収納することができる程度の数量の電池による小さな電力によって、ドア用電気錠のボルトの出し入れに必要な力を発揮することができるものである必要があり、かつ、このような小電力用のソレノイド及び伝達機構が、本件出願時において、当業者にとって、本件明細書の考案の詳細な説明に記載するまでもなく明らかな技術常識となっている事項であることが少なくとも必要なのである」、「本件明細書には、ドアの内部に収納される電池を電源として駆動する小電力用のソレノイドで、ボルトを出し入れするのに十分な力を持った、ソレノイドについて具体的な記載が全くないばかりか、本件出願時において、定格電力が小さくとも、ボルトの出し入れに必要な力を発揮するソレノイドが、本件明細書に記載するまでもないほどに、当業者間において周知の技術であったことを認めるに足りる証拠はない」、「以上からすれば、本件明細書の考案の詳細な説明においては、本件考案の『ドアの端面に露出する側板からボルトを出し入れしてドアロックを開閉するアクチュエータ』との構成について、当業者がこれを容易に実施することができる程度に、その構成についての記載がない、というべき・・・・である」と述べている。 |