大阪高裁(平成5年7日)“育苗ポットの分離治具事件実施権・・・・の範囲は当事者間の契約(設定行為)によって決定されるもので、これを特許権の全範囲に設定することもできるし、また、その一部に制限して設定することもできる・・・・。上記制限としては、時間的制限、場所的制限、内容的制限があり、そのうち内容的制限には、特許法2条3項が定める生産、使用、譲渡等の実施態様のうち1つ又は複数に制限する場合、特許請求の範囲の複数の請求項のうち一部の実施のみに制限する場合、複数の分野の製品に利用できる特許について分野ごとに制限する場合等が考えられる。そして、・・・・実施権者がその制限範囲を超えて特許発明を業として実施するときは、正当な権原なく特許発明を業として実施する行為として特許権の侵害となり、特許権者等に、差止請求権(特許法100条)や不法行為に基づく損害賠償請求が認められることになる。これに対し、現実の・・・・実施権設定契約において、原材料の購入先、製品規格、販路、標識の使用等について種々の約定がなされることがあるとしても、これらは、特許発明の実施行為とは直接関わりがなく、いわば、それに付随した条件を付しているにすぎず、その違反は、単なる契約上の債務不履行となるにとどまると解するのが相当である」、「本件貸与契約は、・・・・その実質は、本件特許権についての通常実施権を許諾することを約したものと解されるが、そのうちの本件禁止条項は、通常実施権の範囲につき、実施態様を使用に限定するだけではなく、さらに、本件ポットカッターを他社製連結育苗ポットの分離等に用いてはならないという制限を付する旨の合意であると解される。しかし、本件特許権に係る特許請求の範囲は、・・・・本件ポットカッターにより切断される育苗ポットについては『カップ状に成形された育苗ポットを縦横方向に整列状態で連設した樹脂成形体』と定めているにすぎないから、本件ポットカッターをそのような連結育苗ポットに用いるものである限り、さらにその育苗ポットの供給先がどこであるかというような点は、本件発明の実施行為と直接関係がなく、本来は、本件特許権とは無関係に、被控訴人において決定すべき事柄であることにかんがみると、本件禁止条項は、通常実施権の範囲を制限するものではなく、これとは別異の約定であるというべきである」、「そうすると、本件禁止条項の違反は、本件貸与契約上の債務不履行となることはともかく、本件禁止条項の違反等を原因として本件貸与契約が解除されない限りは、被控訴人が正当な権原なく本件発明を業として実施するものとはいえず、したがって、本件特許権の侵害となるということはできないから、控訴人の被控訴人に対する本件特許権の侵害に基づく損害賠償請求は理由がない」、本件において、債務不履行に基づく損害賠償請求の当否を判断するためには、本件禁止条項の有効性、すなわち、本件禁止条項が独占禁止法2条9項に定める不公正な取引方法に該当し、公序良俗違反により無効であるか否かを審理する必要がある。また、その結果、本件禁止条項が無効ではないと判断され、被控訴人に債務不履行に基づく損害賠償責任が認められる場合には、上記債務不履行により控訴人に生じた損害(得べかりし利益)の有無及び額について審理しなければならず(債務不履行に基づく損害賠償請求の場合には、特許権の侵害を前提とする特許法102条2項又は同法105条を適用ないし類推適用することはできない。)、当審において、控訴人は、改めて控訴人が債務不履行により被った損害の有無及び額について立証する必要がある」と述べている。

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