東京高裁(平成16年10月27日)“雨水等の貯留浸透タンク事件”は、「控訴人林物産は、特許法127条が、特許権者の訂正審判請求につき通常実施権者などの承諾を要件としたのは、特許権者が誤解に基づき不必要な訂正審判請求をしたり、過剰な範囲の訂正を請求したりすること等により、通常実施権者などが不測の損害を被らないようにするためであるから、通常実施権者は、諾否をすべて自由に決定することができるものではなく、上記不測の損害を被る事態が存在しない限り、特許権者の訂正審判請求に対する承諾義務があると解すべきであり、本件訂正審判請求には、被控訴人に対し損害を被らせる事情は何ら存在せず、信義則上、承諾義務を認めるべき事情が存在するから、被控訴人には、特許法127条の上記法意及び信義則に基づき、本件訂正審判請求を承諾すべき義務がある旨主張する」、「確かに、控訴人林物産がその主張の根拠とする平成13年8月20日発明協会発行『工業所有権法逐条解説[第16版]』(・・・・以下『逐条解説』という。)には、『もともと訂正審判の請求は、当該特許権に対して無効審判を請求してくることに対する防禦策と考えれば、その特許権についての・・・・通常実施権者・・・・にとって利益になることはあっても不利益になることはないのであるが、実際には特許権者が誤解にもとづいて不必要な訂正審判を請求することもあり、また瑕疵の部分のみを減縮すれば十分であるのにその範囲をこえて訂正することも考えられ、そうなると前記の権利者は不測の損害を蒙ることもあるので、一応訂正審判を請求する場合にはこれらの利害関係ある者の承諾を得なければならないこととしたのである』(336頁)との記述がある。しかしながら、特許権者と通常実施権者との間において、特許の有効性について紛争がある場合はもとより、特許の有効性については全く白紙の状態である場合であっても、特許が無効となることにより、通常実施権者は、実施料を支払うことなく、当該技術を自由に使用することができるという利益があることは明らかであるから、そのような場合、『訂正審判の請求は、当該特許権に対して無効審判を請求してくることに対する防禦策と考えれば、その特許権についての・・・・通常実施権者・・・・にとって利益になることはあっても不利益になることはない』ということはできないから、逐条解説の上記記述は、専ら、通常実施権者が特許の有効性を自認するなど、特許権者と通常実施権者との間で特許の有効性について争いがないことが明らかな場合を念頭に置いたものであると解するのが相当である。そうすると、・・・・控訴人らと被控訴人との間において、本件特許の有効性について争いがないことが明らかであるということはできない本件においては、特許法127条の規定ないし法意は、被控訴人に本件訂正請求を承諾すべき義務を認める根拠とはならないというべきである」と述べている。 |