東京高裁(平成16年12月21日)“回路のシミュレーション方法事件”は、「数学的課題の解析方法自体や数学的な計算手順を示したにすぎないものは、『自然法則を利用した技術的思想の創作』に該当するものでないことが明らかである」、「原告は、本願発明における、『非線形連立方程式をもとに構成されたホモトピー方程式が描く非線形な解曲線』が、設計された回路の入力電圧に対する出力電圧や出力電流等の関係を示す特性曲線であり、回路の動作特性を示す曲線である以上、回路の物理的ないし技術的性質を反映したものとなることは当然であり、この『解曲線』をBDF法を用いて追跡することで元の非線形連立方程式の解、すなわち回路の動作特性を解析できることを理由に、本件審決・・・・が誤りであると主張する。しかしながら、非線形連立方程式をもとに構成されたホモトピー方程式が描く非線形な解曲線が、設計された回路の入力電圧に対する出力電圧や出力電流等の関係を示す特性曲線であるとしても、この方程式が描く非線形な解曲線をBDF法を用いて追跡することは、原告が自認するとおり、元の非線形連立方程式の解を求めることにほかならないから、このプロセスは、一般の非線形連立方程式の解法と何ら相違するものではなく、回路の物理的、技術的性質への考察を含むものでない。言い換えれば、本願発明において、現実の回路の物理的特性は非線形連立方程式に反映されるだけであって、その解析には何ら利用されないものであり、創作自体はあくまで、ホモトピー方程式を構成し、BDF法を用いて追跡することに向けられており、一旦非線形連立方程式の形になってしまえば、その解法は数学の領域に移行し、数学的な処理により解析が行われるにすぎないものといえる。そして、原告主張のように、ホモトピー方程式の解曲線を追跡することやBDF法自体が、非線形な特性曲線を呈する回路の動作特性を解析する有効な方法の1つとして、当業者に知られているからといって、そのプロセスが数学的な解析処理にすぎないことが否定されるものでもない。したがって、上記解曲線を追跡することは、数学的な手法といえるものであって、『自然法則を利用した技術的思想の創作』を含むものということはできないから、原告の上記主張は採用できず、本件審決が、本願発明の『回路のシミュレーション方法』について、『純粋に数学的な計算手順を明記したにすぎない』と判断したことに誤りはない」と述べている。 |