東京地裁(平成6年2月8日)“アイスクリーム充填苺事件、「『特許請求の範囲』の記載によれば本件特許発明の『アイスクリーム』は『外側の苺が解凍された時点で、柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していることを特徴とする』ものとされている(構成要件B及びC参照。しかし、この『外側の苺が解凍された時点で、柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していることを特徴とする』との記載は『新鮮な苺のままの外観と風味を残し、苺が食べ頃に解凍し始めても内部に充填されたアイスクリームが開口部から流れ出すことがなく、食するのに便利であ』る(本件明細0008・・・・)という本件特許発明の目的そのものであり、かつ『柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性』という文言は、本件特許発明におけるアイスクリーム充填苺の機能ないし作用効果を表現しているだけであって、本件特許発明の目的ないし効果を達成するために必要な具体的な構成を明らかにするものではない。特許請求の範囲に記載された発明の構成が作用的機能的な表現で記載されている場合において当該機能ないし作用効果を果たし得る構成であればすべてその技術的範囲に含まれると解すると明細書に開示されていない技術思想に属する構成までもが発明の技術的範囲に含まれ得ることとなり出願人が発明した範囲を超えて特許権による保護を与える結果となりかねない。しかしこのような結果が生ずることは特許権に基づく発明者の独占権は当該発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるという特許法の理念に反することになる。したがって特許請求の範囲が上記のような作用的機能的な表現で記載されている場合にはその記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず当該記載に加えて明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しそこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきものと解するのが相当である」、「本件明細書・・・の記載によれば、アイスクリーム本来の食感を有し、かつ、通常のアイスクリームの解凍温度に到達しても溶けない形態保持性を有するアイスクリームは、少なくとも、通常のアイスクリームの組成に寒天及びムース用安定剤を添加することにより製造することができることが開示されているが、本件明細書においては、それ以外の方法によって、アイスクリーム本来の食感を失わず、かつ、苺が解凍された時にも形態保持性を維持することができるアイスクリームを製造することができることについて、何らの記載もない」、「上記によれば、本件特許発明における『外側の苺が解凍された時点で、柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していることを特徴とする』アイスクリームに該当するためには、通常のアイスクリームの成分のほか、少なくとも『寒天及びムース用安定剤』を含有することが必要であると解するのが相当である」、「これに対して、被告製品は、・・・その成分に『寒天及びムース用安定剤』が含まれていないことは明らかである。したがって、被告製品は、本件特許発明のアイスクリーム充填苺における『アイスクリームは、外側の苺が解凍された時点で柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していること(構成要件B、C)を充足しないから、本件特許発明の技術的範囲に含まれない」と述べている。

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