東京高裁(平成6年0日)“マルチトール含蜜結晶事件控訴人は、甲特許明細書においては、その方法を開示することなく、あえて『従来より知られた方法』との包括的な記載をしたものである・・・・。そして、・・・・JISK6721法のほかに、パウダーテスター法もまた『従来より知られた方法』の1つであり、粉末マルチトールの見掛け比重の測定方法として、当業者が通常パウダーテスター法ではなくJISK6721の方法を用いることが明らかであると認めるに足りる証拠はない。控訴人は、・・・・甲特許明細書に記載された測定値と、パウダーテスター法で測定した場合の測定値を対比し、さらに、JISK6721法を用いた場合とパウダーテスター法を用いた場合との測定値の差を修正することを主張する。しかし、いずれの方法で測定したか甲特許明細書に記載はなく、控訴人主張のような作業を経ない限り、容易に知ることはできないものであって、甲特許出願後の者が、当業者として当然に控訴人主張のような必ずしも容易とは思われない作業をしてしかるべきであるとすべき事情は認められない。むしろ、あえて『従来より知られた方法』との包括的な記載をして特許を取得した以上、控訴人は、上記のような作業の手間とリスクを出願後の者に転嫁することは許されず、広い概念で規定したことによる利益とともに、その不利益も控訴人において負担すべきである。したがって、本件において、従来より知られたいずれの方法によって測定しても、特許請求の範囲の記載の数値を充足する場合でない限り、特許権侵害にはならないというべきであるとの原判決の判断は、是認し得るものであり、これを前提とした、構成要件Bの充足性に関する原判決の認定判断も相当であるというべきである。控訴人の主張は、採用することができない」と述べている。

特許法の世界|判例集