東京高裁(平成6年7日)“生体高分-リガンド分子の安定複合体構造の探索方法事件被控訴人は、本件特許発明の『ダミー原子』は、生体高分子の水素結合性領域を構成する三次元格子点の中心に1個だけ配置されるものである、と主張する。しかし、本件特許発明を特定する特許請求の範囲に、同発明における『ダミー原子』が何であるかを述べるものとして記載されているのは『生体高分子中の水素結合性官能基の水素結合の相手となり得るヘテロ原子の位置に設定したダミー原子』だけであり、これ以外にない。そして『ダミー原子』がその位置に存在すると仮定した架空の原子という意味の用語であることは、当業者にとって自明の事項である(弁論の全趣旨。そうだとすると、本件特許発明の『ダミー原子』とは、その特許請求の範囲に記載されたとおり『生体高分子中の水素結合性官能基の水素結合の相手となり得るヘテロ原子の位置に設定した』架空の原子のことであり『生体高分子中の水素結合性官能基の水素結合の相手となり得るヘテロ原子の位置に設定した』架空の原子であるものはすべてこれに含まれる、と解すべきであり、これを水素結合性領域を構成する三次元格子点の中心に1個配置されるものと限定して解釈すべき理由はないというべきである。確かに、本件明細書には『水素結合性領域内で、かつ、他の原子のファンデルワールス半径外に、適当な数、例えば5〜0個の三次元格子点が存在する水素結合性領域を構成する三次元格子点の中心にダミー原子を配置することにより行うことができる・・・・との記載がある。しかし、上記記載は、本件明細書の『発明を実施するための最良の形態』中の記載であり、いわば、最良実施例についての説明にすぎない。そうである以上、本件特許発明の『ダミー原子』を、最良実施例の構成のものに限定して解釈すべき根拠が認められない限り、本件特許発明の『ダミー原子』を被控訴人主張のものに限定して解釈することはできないことが明らかである」と述べている。

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