東京地裁(平成16年3月29日)“魚用冷却液事件”は、「法112条の2第1項の『その責めに帰することができない理由により・・・・納付することができなかったとき』(サイト注:同条項は平成23年の改正によって『納付することができなかったことについて正当な理由があるとき』に緩和された)とは、『天災地変のような客観的な理由により追納期限内に追納できなかった場合』あるいは『通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお追納期限を徒過せざるを得なかったような場合』を意味するものと解するのが相当である。この点について、原告は、外国では、追納期間の徒過が故意でない場合に特許権の回復を認める立法例もあり、法112条の2第1項が制定された経緯からすると、上記のような立法例との調和を図る必要があり、同条項の『その責めに帰することができない理由により』納付期間を徒過した場合とは、故意でない場合を含めて広く解すべきである旨主張する。しかし、『その責めに帰することができない理由』の意義について、原告の主張のように、重大な過失がある場合も含めて拡大して解釈することは、同条項の文言に明らかに反し、到底採用できないというべきである。また、我が国の規定を、外国の立法例との調和のために、文理に反して解釈しなければならない理由はない(そもそも、パリ条約5条の2第2項も、特許料の不納により失効した特許権の回復を定めることができる旨規定しているにとどまり、特許料の不納により失効した特許権の回復について、国内法を立法するか否かは締結国の自由としている。)。したがって、原告の上記主張は失当である」、「@本件特許料等の納付手続に係る事務の委任を受けたCPA担当者は、特許料の納付等の事務の遂行を専門とする者であり、また、我が国における特許料の納付についての事務を受任したのであるから、我が国の特許料の納付事務を遂行する上で、基本的な事項を十分に把握、確認して、過誤が生じないような措置を採るべき注意義務があり、また、A日付の表記方法には、『月・日』の順で表記する米国式と、『日・月』の順で表記する英国式とがあり、相互に誤認、混同が生じ得ることは容易に予測できるから、米国式と英国式の表記方法の相違に起因する誤解が生じないような対策を講ずべきであったといえる。しかるに、・・・・CPAのデータ入力スタッフは、特許査定の日の『1997−03−11』との表記を1997年11月3日を意味するものと誤解してコンピュータに入力したところ、CPA担当者は、上記入力事務をデータ入力スタッフにまかせたままにし、自らは、特許査定の日が正確に入力されたかどうかを確認することをせず、このため本件特許料等を追納期限を徒過したのであるから、同人には上記の基本的な注意義務に違反する重大な過失があったというべきである」、「CPA担当者には、本件特許料等の追納期限の徒過について、重大な過失があったものと認められるところ、原告は、本件特許料等の追納事務をその専門家であるパトラフィー担当者及びCPA担当者に委任したのであるから、同委任事務の遂行におけるCPA担当者の上記の過失は原告の過失と同視すべきである」、「したがって、原告は、本件特許料等をその追納期間内に追納しなかったことについて、重大な過失が認められるから、原告には、法112条の2第1項の『その責めに帰することができない理由』があったということはできない」と述べている。 |