東京地裁(平成7年20日)“分岐鎖アミノ酸含有医薬用顆粒製剤事件特許制度は新たな技術思想の社会への公開の代償としてこれについて独占権を付与するものであるから既に社会的に知られている技術的手段に対して独占権を付与する必要はなくまたそのような技術的手段に対して独占権を付与することは自由な技術の発展をかえって妨げることになりかねないものである。特許法が同法9条1項各号所定の発明については特許を受けることができない旨を規定しているのはこのような趣旨に出たものである。そうすると同項2号の『公然実施』については不特定多数の者の前で実施をしたことにより当該発明の内容を知り得る状況となったことを要するものであり単に当該発明の実施品が存在したというだけでは特許取得の妨げとはならないと解するのが相当である。この場合において当該発明が物の発明である場合にあっては当該発明の実施品が当業者にとって当該実施品を完全に再現可能なほどに分析することが可能な状態にあることまでは必要でないが当業者が利用可能な分析技術を用いて当該発明の実施品を分析することにより特許請求の範囲に記載されている物に該当するかどうかの判断が可能な状態にあることを要するものと解するのが相当である。そして発明の実施品が市場において販売されている場合には特段の事情のない限り当該実施品を分析してその構成ないし組成を知り得るのが通常というべきである」、「本件についてみるに、・・・・被告製剤の製造方法は、企業秘密として厳格に管理されており、その含有成分の組成は公開されているものの、その他の情報は外部に開示されておらず、分岐鎖アミノ酸原料と練合材を練合し、造粒して顆粒状にし、さらにコーティングを施した製剤という性質上、イソロイシン、ロイシンの個々の粒子を練合前の粒子径のままに分離することは困難であると認められ、市販されている被告製剤からこれに含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度を解析し、被告製剤が本件第1特許発明請求項3の構成を備えたものであり、同請求項1の方法により製造されたことを知ることは、当業者が通常に利用可能な分析技術によっては極めて困難というべきである・・・・。そうすると、被告製剤が市販されていたことをもって、本件第1特許発明請求項1、3に特許法9条1項2号所定の公然実施に該当する事由があるということはできないというべきである」と述べている。

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