東京地裁(平成17年2月10日)“分岐鎖アミノ酸含有医薬用顆粒製剤事件”は、「特許制度は、新たな技術思想の社会への公開の代償として、これについて独占権を付与するものであるから、既に社会的に知られている技術的手段に対して独占権を付与する必要はなく、また、そのような技術的手段に対して独占権を付与することは自由な技術の発展をかえって妨げることになりかねないものである。特許法が、同法29条1項各号所定の発明については特許を受けることができない旨を規定しているのは、このような趣旨に出たものである。そうすると、同項2号の『公然実施』については、不特定多数の者の前で実施をしたことにより当該発明の内容を知り得る状況となったことを要するものであり、単に当該発明の実施品が存在したというだけでは、特許取得の妨げとはならないと解するのが相当である。この場合において、当該発明が物の発明である場合にあっては、当該発明の実施品が、当業者にとって当該実施品を完全に再現可能なほどに分析することが可能な状態にあることまでは必要でないが、当業者が利用可能な分析技術を用いて当該発明の実施品を分析することにより、特許請求の範囲に記載されている物に該当するかどうかの判断が可能な状態にあることを要するものと解するのが相当である。そして、発明の実施品が市場において販売されている場合には、特段の事情のない限り、当該実施品を分析してその構成ないし組成を知り得るのが通常というべきである」、「本件についてみるに、・・・・被告製剤の製造方法は、企業秘密として厳格に管理されており、その含有成分の組成は公開されているものの、その他の情報は外部に開示されておらず、分岐鎖アミノ酸原料と練合材を練合し、造粒して顆粒状にし、さらにコーティングを施した製剤という性質上、イソロイシン、ロイシンの個々の粒子を練合前の粒子径のままに分離することは困難であると認められ、市販されている被告製剤からこれに含有される分岐鎖アミノ酸粒子の粒度を解析し、被告製剤が本件第1特許発明請求項3の構成を備えたものであり、同請求項1の方法により製造されたことを知ることは、当業者が通常に利用可能な分析技術によっては極めて困難というべきである・・・・。そうすると、被告製剤が市販されていたことをもって、本件第1特許発明請求項1、3に特許法29条1項2号所定の公然実施に該当する事由があるということはできないというべきである」と述べている。 |