名古屋高裁(平成17年4月27日)“圧流体シリンダ事件”は、「一般に、実施料率の算定に当たっては、権利者の実施状況、実施契約の状況、侵害された権利が基本的技術か又は改良的技術か、従前技術との距離、イ号物件において果たしている重要性、商業的実施における困難性、実施に際し更に投資を要するものであったか否か、当該権利の技術内容と程度、控訴人の規模、控訴人製品の単価数量等、当該事案における諸般の事情に加え、平成10年・・・・改正によって、現行の実用新案法29条3項の規定が新設(サイト注:『実施に対し通常受けるべき』の『通常』を削除)された趣旨を総合的に考慮して、相当な割合を算定すべきである。これを本件についてみるに、・・・・本件権利は、ロッドレスシリンダの分野においては、小型化しつつ正確な直線運動を確保し得る、有用性の高い考案を対象とするものであること、他方、製造については、特段複雑な工程を要するものではなく、利益率は高いと考えられること、控訴人は、空圧機器で世界シェア2割、国内シェア5割を占める大手の会社であり、被控訴人と比較して規模に格段の相違があること・・・・、控訴人において相当数の販売実績を有し、その販売数量が増加傾向にあること・・・・、それが、控訴人の上記シェアの拡大、維持に貢献していると考えられることが認められる。一方、本件考案は、基本的に改良発明型の考案であり、先に認定したとおり、本件考案については、数次にわたる無効審決や訂正審決等が繰り返されてきたことからもうかがわれるように、当初出願の時点においては、必ずしもその技術的範囲に明らかでない部分があったこと、その意味で控訴人の実施態様ばかりを責めることはできないこと、イ号物件は、控訴人の技術と努力によって本件考案に更に改良を加えたものであることがうかがわれること等の事情が存在する。そして、被控訴人は、本件権利を同業他社に販売金額の12パーセントの実施料で実施することを許諾し、その実施料の支払を受けていたことが認められるものの、実施契約はこの1件のみで、販売数量も少ない上、本件実用新案権以外に意匠権等も併せてその使用を認める契約であること・・・・が認められるから、同実施料率をただちに採用することはできないといわざるを得ない。その他本件に顕れた上記の諸般の事情を総合考慮すれば、本件において相当な実施料率は、10パーセントと判断するのが相当である。この点について、控訴人は、発明協会発行の『実施料率』における当該分野の最頻値や平均値を採用すべきである等と主張するが、上記のとおり、各事案における実施料率は、具体的な事情に基づいて個別的に判断されるべきものであり、いわゆる業界相場はその一要素として検討され得るにすぎないから、上記判断を覆すには足りず、控訴人の上記主張は、採用できない」と述べている。 |