知財高裁(平成7年50日)“抗ウィルス性置換1、3-オキサチオラン事件存続期間が延長された場合の特許権の効力について規定した特許法8条の2は『特許権の存続期間が延長された場合・・・・の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となった第7条第2項(サイト注:現4項)の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない』と規定している。存続期間の延長制度の趣旨及びその文言に照らせば、この規定は、政令の定める処分の対象となる範囲と関係のない部分については期間延長後の特許権の効力が及ばないとすることが必要であるが、一方において、・・・・薬事法4条の規定のように、医薬品について、その成分、効能・効果に加え、名称、用法、用量、使用方法等を特定した品目ごとに製造承認等を受ける必要があるとされているときに、当該製造承認等が得られた品目についてのみに期間延長後の特許権の効力が及ぶとするのは、特許権者の権利の実効性の確保という観点からは問題があることから、その双方の観点を考慮の上、期間延長後の特許権の効力は、当該品目に限定されず、成分により特定される『物』及び効能、効果により特定される『用途』について特許発明を実施する場合全般に効力が及ぶものとし、それ以外には効力が及ばないとしたものであると解される。このような特許法8条の2の規定の趣旨からすれば、政令で定める処分によって同法7条の3(サイト注:現7条の7)第1項1号にいう『特許発明の実施』ができるようになったか否かについても、政令で定める処分において具体的に対象となった、成分、効能・効果のほか、使用形態、使用方法、使用量等で特定される具体的な品目ではなく、当該処分の対象となった成分により特定される『物』と当外処分で定められた『用途薬事法条1項の承認においては効能・効果により特定される)によって画される範囲のものを基準として判断するのが相当であると考えられる。なぜなら、一方で、期間延長後の特許権の効力が政令で定める処分の対象となった具体的な品目に限定されず、当該処分の対象となった『物』と当該処分で定められた『用途』で画される範囲全般に及ぶとしながら、他方で、政令で定める処分によって『特許発明の実施』ができるようになったか否かを当該処分の対象となった具体的な品目を基準に判断するということになれば、特許権者に政令で定める処分を受ける必要があったため被った不利益の救済以上のものを与えることになり、また、特許権者側は特許発明を実施するため具体的品目ごとに特許法7条2項の政令に定める処分を受けることにより、その都度延長登録を受けることができ、その結果、延長される期間が不当に長くなるおそれが大きくなるからである。そうすると、成分、効能・効果に加え、使用形態、使用方法、使用量等で具体的に特定される具体的な品目についてその製造等の禁止を解除する政令で定める処分がされている場合には、当該処分の対象である成分により特定される『物』と当該処分で定められた『用途』によって画される範囲において特許発明が実施できるようになっているというべきであるから、その物の使用の形態等に変更があるため、重ねて同様の処分を受けることが必要であるとされていても『特許発明の実施に特許法第7条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であった』と認めることはできないと解するのが相当である」と述べている。

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