大阪地裁(平成17年7月28日)“モンキーレンチ事件”は、「原告は、被告が本件実用新案登録出願の際に実施の事業の準備をしていたとする考案は、図面に照らすと、レンチ主体の上面に目盛表示を、可動あご部の基端側上面に矢印表示をそれぞれ入れて、これら目盛表示と矢印表示とで、固定あご部に対する可動あご部の開口幅寸法が計測できるような計測手段を備えていなかったものであるのに、実際に製造販売された被告製品は、上記のような計測手段を備えているものであって、すなわち、本件実用新案登録出願の後に、上記のような計測手段を加えるという大幅な変更を加えたものであるところ、これは単なる設計変更の域を遙かに越えるものであるから、被告製品の製造販売は、本件実用新案登録出願時に被告が実施の事業の準備をしていた考案の範囲を越えると主張する。しかしながら、先使用権の効力は、実用新案登録出願の際に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく、これに具現された考案と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式に及ぶものである。そして、仮に、被告製品の上記のような目盛表示と矢印表示からなる計測手段が、本件実用新案登録出願以降に設けられたものであったとしても、上記の程度の変更は、原告の主張するような大幅な変更というべきものではなく、モンキーレンチそのものの構造にも何らの変動がないものであるから、被告製品の製造販売によって実施された考案と、本件実用新案登録出願日当時に被告が実施の事業の準備をしていた考案との同一性は失われないというべきである。したがって、原告の上記主張は採用することができない」と述べている。 |