知財高裁(平成17年8月30日)“ピラゾロピリジン化合物の新規用途事件”は、「本願発明は本願化合物の新たな用途を発見した用途発明であり、本願化合物がそのような用途に有用であることを本件出願当時の技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得なかったことを前提とする以上、本願発明の当該用途における有用性を基礎付ける薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしなければならないことに変わりはないというべきであり、そのような記載が何ら存在しない本願発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項の要件を満たさないというべきである」、「原告は、臨床試験開始前に行われる前臨床試験段階において透析低血圧症を直接的に再現した動物モデルを用いた実証データを取得することが事実上不可能であるから、本願発明について発明の詳細な説明に薬理データの記載を求めることは、不可能を強いるものであると主張する。しかしながら、『薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載』とは、当該医薬がその用途において有用性があることを具体的に裏付ける記載であって、必ずしも当該疾病を直接的に再現した動物モデルを用いた薬理データを必須とするものではない。審決も、本願発明の詳細な説明に本願疾病を直接的に再現した動物モデルを用いた薬理データが存在しないことを理由に『薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載』が存在しないとしたものではなく、本願発明の詳細な説明には『本願発明の有効成分・・・・について透析時や透析後低血圧症の予防や治療に有効に作用することを示す薬理データといえるものは、何ら記載されていない上、薬理データと同視すべき程度の記載もない。また、上記投与方法や投与量を採用する根拠も何ら示されていない。』ことを理由に特許法36条4項に違反するとしているのである。『薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載』については、当該医薬の有効成分、用途、投与方法、薬理効果等に応じ、様々な記載方法が可能であり、本願発明について、その発明の詳細な説明において薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載を求めることが不可能を強いるものであるとはいえない」と述べている。 |