大阪地裁(平成7年6日)“育毛剤事件被告がK6を介してK5向けに6−BAP(サイト注:育毛剤の有効成分)を販売しており、同社が育毛剤『イノベート』を製造販売している・・・・。被告は、K5との間で本件特許のライセンス契約は存在しないと主張するが、弁論の全趣旨によれば、被告は、K5が6−BAPを用いた育毛剤を製造販売することを知って、K5向けに6−BAPを供給したものと認められるから、仮に、被告主張のとおり、明示のライセンス契約がないとしても、上記6−BAPの供給をもって、K5に対し、黙示的に本件特許の通常実施権を許諾したものと認めるのが相当である。ところで、被告が、K5から、上記黙示のライセンスに基づいて、ライセンス料の支払いを受けたことを認めるに足りる証拠はない・・・・。しかしながら、相当の対価の算定にあたって考慮すべきは、使用者等が『受けるべき利益』であって、ライセンス料名目で現実の金銭支払いを受けている必要があるものではない。したがって、仮に、使用者等がライセンス料名目での支払いを受けていなくとも、使用者等が何らかの利益を得ているとすれば、そこにライセンス料相当額を観念することはできるのであり、これが使用者等が特許権によって受けるべき利益にあたるというべきである。これは、本件におけるイノベートについても妥当する。上記のとおり被告がK5に対して黙示的に本件特許の通常実施権を許諾したものと認められることからすれば、被告としては、これに対する適切な対価(これは金銭的利益に限らず、情報提供や便宜供与等の利益であることもあり得る)をK5に求めるのが自然であり、そのように推認することができる(その一例として、被告がK6を介してK5向けに6−BAPを販売して得ている利益の中に、K5から黙示のライセンスによって得られるべきライセンス料相当額が含まれていることが考えられる。)。そして、これらは被告が本件特許権を有していることによって得られるものと認められるから、相当の対価の額を算定するにあたって考慮すべき、被告が受けるべき利益にあたるということができる」、「イノベートは、平成5年0月1日に販売が開始され、平成6年には、年間で約8億円の売上げがあったものと認められる。もっとも、・・・上記売上げは、消費者が購入する市場における売上げであると認められ、また、・・・イノベートは、薬局薬店を通じて消費者に販売されることが認められるから、上記売上高は、K5自身による売上高ではない。ここで、K5自身の売上高を明らかに認めるに足りる証拠はないが、消費者が購入する際の価格には、K5から消費者に至る過程に介在する薬局薬店や中間業者の経費やその利益分が含まれていることを考慮して、K5自身の売上高としては、少なくとも、消費者が購入する市場における売上高の半額に相当する売上高があったものと推定すべきである。したがって、平成6年におけるK5によるイノベートの売上高は、9億円であったと推定される。これを基に、平成5年0月から同年2月までの間における、K5によるイノベートの売上高を推計すると、下記計算式のとおり、7億2500万円となる」、2,900,000,000÷2×3=725,000,000(1円未満四捨五入)」、「以上合計すると、平成6年までのイノベートの売上高は、6億250万円となる」、「イノベートの売上高の今後の見通しについて、原告らは、平成7年以降、年間0億円程度の売上高が見込まれると主張する。これに対し、被告は、育毛料は発売時にはテレビコマーシャル等の宣伝により爆発的に売り上げる場合もあるが、きわめて流行性が高く、継続的に売上げが見込めることは少ないと主張する。そこで検討するに、被告の上記主張は、いずれもこれを裏付ける証拠のない、被告の推測ないし意見にすぎないものであって、直ちにこれを採用することはできない。かといって、サイトマックスについて・・・述べたところと同様の理由により、原告らの上記主張も直ちに採用することができず、イノベートについて、平成7年以降、年間0億円程度の売上高を維持できるとまで認めることはできない。そして、本件において他に今後の見通しについて推定するに足りる証拠や事情がない以上、上記事情に鑑みて、イノベートの売上高については、平成6年における売上高(9億円)を基準額として、平成7年及び平成8年はこの0パーセント、平成9年から平成3年までの5年間はそれぞれ基準額の0パーセント、それ以降の期間(平成4年1月1日から同年8月1日まで)は基準額の9パーセント(基準額の0パーセントを1年分とし、そのうち7か月分。ただし1パーセント未満切捨て)の売上げが見込まれるものと推定するのが合理的である・・・。したがって、平成7年以降の売上高の見込額は、平成7年及び平成8年は、それぞれ上記基準額の0パーセントに相当する7億4000万円、平成9年から平成3年までの5年間はそれぞれ上記基準額の0パーセントに相当する4億5000万円、それ以降の期間は上記基準額の9パーセントに相当する8億4100万円となる。そうすると、平成7年以降のK5によるイノベートの売上げ見込額の合計額は、下記の計算式のとおり、115億7100万円となる」、,740,000,000×2+,450,000,000×5+84,000,000=,57,000,00」、「そして、これを・・・平成6年までのK5によるイノベートの売上高と合計すると、151億9600万円となる」、「原告らは、K5から受けるべきライセンス料相当額の算定にあたって、売上げの3パーセントがこれに相当すると主張し、その根拠として、被告がライセンスを行う場合の一般的料率が売上げの3パーセントであるからとする。しかしながら、・・・イノベートは、有効成分として、6−BAPだけではなく、ペンタデカン酸グリセリドも配合しており、これら2種類の有効成分の組合せにより発揮される効果を期待するものであると認められるから、本件発明の単なる実施品ではなく、これを応用したものであるというべきである。このような事情に照らせば、本件において、イノベートについてK5から受けるべきライセンス料相当額の算定にあたって、イノベートの売上げに乗じるべきライセンス料率としては、2パーセントとするのが相当である。これを前提として、被告がK5から受けるべきライセンス料相当額を算出すると、151億9600万円の2パーセントであるから、3億0392万円となる」と述べている。

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