大阪地裁(平成17年9月26日)“育毛剤事件”は、「本件発明は、育毛剤についての発明であるから、これを実施するためには、医薬部外品としての製造承認・・・・を受ける必要がある・・・・、そのためには、その申請にあたって6−BAPの『別紙規格』等を添付しなければならない・・・・、その内容が多岐にわたり、その作成のために各種試験を行わなければならないなど、相当の労力と資金を要する・・・・。そして、本件発明のライセンシーのうち、少なくとも、K7は、原告から6−BAPの供給を受け、原告の『別紙規格』等を利用していること・・・・からすれば、上記『別紙規格』等がない場合に、K7が、自ら『別紙規格』等を作成してまで本件発明のライセンスを受けようとしたかどうか、あるいはそれをしたとして、その場合のライセンス料が、本件において認定したような料率であったかどうかという点は、その経費労力の大きさと失敗のリスクを考慮すれば、大いに疑問のあるところである。換言すれば、6−BAPの医薬部外品としての製造承認ないし製造販売承認が得られるような『別紙規格』等を作成することは、本件特許について他社にライセンスをするにあたっても必要であるか、少なくとも極めて有用な作業であるということができるのであって・・・・、被告がその作成に成功したことは、・・・・貢献の度合いを考慮するにあたっては、重要な事情であるといわなければならない」、「被告は、本件特許権により被告が得られる利益の算定に関して、被告が本件発明に関して莫大な費用を支出した旨主張する・・・・。これら費用は、本件発明がされるについての被告の貢献として考慮すべきものとなり得るものであるから、ここで検討することとする。なお、被告が支出した費用のうち、本件発明についての相当の対価の算定における被告の貢献の算定において考慮すべきものは、本判決の算定方法では、本件発明そのもののために支出した費用にとどまらず、本件特許のライセンスのために被告が支出した費用や、本件特許のライセンスのために有用な費用も含めることになる」、「本件において、被告が本件特許権を有することにより得られるべき利益は、K7及びK5に対するライセンスにより得られるべき利益にとどまる・・・・。もっとも、本件発明が育毛剤の発明であることに照らせば、被告が他社にライセンスをするにあたっても、被告において、その実施品の効果が確認され、安全性が確保され、その医薬部外品としての製造承認が得られる見込みが十分にあることを相手方に示すことができなければ、ライセンス合意の成立はおぼつかないものというべきであるから、安全性確認等のために要した費用は、ライセンスのためにも有用な費用であったと認めることができる(もっとも、これ及び後記の各費用のうち、6−BAPの医薬部外品としての製造承認ないし製造販売承認が得られるような『別紙規格』等を作成することに要した費用は、結局、上記・・・・で説示した被告の貢献と重複するものである。)。ただし、これらは、自社販売分やOEM分の製造販売(サイト注:いずれについても独占の利益は認定されなかった)のためにも有用な費用であったことは否定することができないから、本件特許のライセンスのためだけに支出された費用とすることができないことはもちろんである」、「被告が、6−BAPの安全性試験や育毛効果試験のため、試験の委託費用、安全性資料の使用許諾料や謝礼として、1億3149万7722円を支出したことが認められる。これらは、本件発明の実施品の安全性確認等のために要した費用であり、・・・・本件特許のライセンスのためにも有用な費用であったと認められる」、「被告が、P3教授との連携関係を維持強化するために、P3教授への顧問料やK13大学への寄付金として、合計2億2907万2000円を支出したことが認められる。しかしながら、これらは被告における研究開発全般のために支出されたものと認められる。なるほど、・・・・これらの研究開発の中で、平成2年12月ころ、P3教授から、原告P2が行った白髪防止評価報告について、本白髪防止評価系は育毛剤の良い評価系になるかもしれない、これはストレス負荷により毛の成長が遅いという実験結果から、人間社会ではストレスにより脱毛する人がいる、との助言を受け、その際に、白髪防止剤を調べるときは育毛についても調べることとされたことが認められ、原告P2をこのような助言等を受ける環境下に置いていたという点では、これらの支出も本件発明がされるにあたっての被告の貢献の一部に関与しているということができるけれども、この支出額全体を本件発明のためのものと評価することはできない。」、「被告は、P3教授が代表者を務める有限会社P3皮膚科学研究所と研究委託契約書を締結し、800万円を支出したことが認められる。そして、同社への研究委託業務の内容は、@コウジ酸を配合した製剤の有効性と安全性の検証と報告書の作成、A6−BAPを配合した製剤の有効性と安全性の検証と報告書の作成、B被告の学術活動への協力、C被告が依頼する個人の治療と治療すべき症状の原因究明への協力、であり、このうち上記Aは本件発明の実施品の安全性確認等に関わるものである。したがって、上記支出した費用の一部は、本件発明の安全性確認等のために要した費用であり、・・・・本件特許のライセンスのためにも有用な費用であったと認められる」、「被告は、原告らを含む被告従業員であった研究者らの給与についても、本件発明に関して支出した費用であると主張する。しかしながら、被告従業員らの給与は、被告が従業員らを雇用することに伴い当然に支出すべきものである。そして、その支出した給与のうちに、特に本件発明やそのライセンスのためにのみ支出したものがあるという事情は認められないから、これら給与は特別な貢献として考慮すべきものとはいえない」、「被告は、本件発明について特許権を取得するにあたって、出願費用及び特許料の他、弁理士への顧問料や、文献検索費用を支出したと主張する。このうち、出願費用及び特許料の合計200万2800円・・・・は、特許権の取得のために必要な費用である。また、文献検索に要した67万8845円・・・・も、同様に本件特許権取得のために必要な費用である。しかしながら、これらはいずれも通常の出願手続において必要とされる範囲を越えるものではないから、これらを特別な貢献として考慮すべきものとはいえない。また、弁理士への顧問料合計813万8667円・・・・も、本件発明に限らない、被告の顧問弁理士としての業務一般に対する対価であるから・・・・、これを特別な貢献として考慮すべきものではない」、「本件に現れた諸事情を総合勘案して、本件発明がされるにあたって、被告と原告らとの関係で、被告が貢献した程度を考慮し、さらに、上記・・・・で検討したところも加味すると、本件発明について、相当の対価の額を定めるに当たり、被告が本件特許権により受けるべき利益に乗ずべき割合(原告らへの配分割合)は、2パーセントと認めるのが相当である」と述べている。 |