知財高裁(平成18年11月21日)“内膜肥厚の予防、治療剤事件”は、「被控訴人は、その効能・効果を『慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍、疼痛及び冷感等の虚血性諸症状の改善』(平成15年4月からは『脳梗塞(心原性脳塞栓症を除く)発症後の再発抑制』を追加)とする抗血小板剤として、昭和63年4月以降、本件製剤を製造、販売しているものであるが、平成8年8月8日に本件用途特許権の設定登録がされた後も、本件製剤について、本件用途発明の『内膜肥厚の予防、治療』、『PTCA後やステントの血管内留置による冠状動脈再閉塞の予防および治療』の用途に係る効能・効果につき薬事法14条所定の承認を受けてはいないものの、他方で、平成12年10月には、標準的な診療情報を医師等に提供することを目的として作成された『循環器病の診断と治療に関するガイドライン』(社団法人日本循環器学会発行)に、PTCA後の再狭窄予防の薬剤として、シロスタゾールが他の2薬とともに挙げられるまでに、その効果が認知されたものとなっていた状況の下で、平成12年以降、被控訴人の全国各地の営業担当者等が、本件製剤の特性の1つとしてシロスタゾールの再狭窄予防効果等を積極的にアピールして、循環器科部門での本件製剤の販売促進を図っていたことに加え、平成12年3月改訂のIF、平成15年4月改訂の添付文書において、本件製剤の内膜肥厚抑制(再狭窄予防)の効果を示唆する記載を追加しているものである。このように、被控訴人は、本件製剤について、『PTCA後やステントの血管内留置による冠状動脈再閉塞の予防および治療剤』と明示的に表示して販売していたものでないにしても、遅くとも平成12年ころからは、本件製剤に再狭窄予防効果等があることをその特性として積極的に位置付けた販売活動を行っていたものであり、平成12年10月ころには、循環器科医師等の間でシロスタゾールがPTCA後の再狭窄予防の薬剤として広く認知されるようになったことからすれば、少なくとも平成12年10月以降の本件製剤の販売の中には、本件製剤が上記ガイドラインにいうPTCA後の再狭窄予防の薬剤として、すなわち本件用途発明の『PTCA後やステントの血管内留置による冠状動脈再閉塞の予防および治療』の用途に使用されるものとして販売されたものが一定量含まれているものと認めるのが相当であり、そうすると、本件においては、その一定量の販売の限度で、本件用途発明に係る『PTCA後やステントの血管内留置による冠状動脈再閉塞の予防および治療剤』なる発明の実施があったというべきである」、「これに対し被控訴人は、医薬品に係る特許発明は、薬事法で承認された効能・効果で製造、販売されて、初めて実施と評価されるべきものであり、薬事法上承認されていない効能・効果に係る用途発明の用途に用いるために医薬品を使用(適応外使用)されるようなことがあったとしても、その医薬品を製造、販売することをもって、当該用途発明の実施と評価することはできない旨主張する。確かに、医薬品の用途発明は、その用途に係る効能・効果につき薬事法上の承認を得て実施されるのが一般的であるとはいえるが、医薬品の用途発明においては、当該用途に使用されるものとして当該医薬品を販売すれば、発明の実施に当たるということができるのであり、このことは必ずしも薬事法上の承認の有無とは直接の関係がないというべきであって、仮にその販売が薬事法上の問題を生じ得るとしても、実際に当該用途に使用されるものとして販売している以上、当該用途発明を実施しているというべきである。医薬品の用途発明の実施は、例えば医薬品の容器やラベル等にその用途を直接かつ明示的に表示して製造、販売する場合などが典型的であるといえるが、必ずしも当該用途を直接かつ明示的に表示して販売していなくても、具体的な状況の下で、その用途に使用されるものとして販売されていることが認定できれば、用途発明の実施があったといえることに変わりはない。前記のとおり、本件においては、本件製剤の有効成分であるシロスタゾールがPTCA後の再狭窄予防の薬剤として広く認知されており、被控訴人は、本件製剤に再狭窄予防効果等があることをその特性として積極的に位置付けた販売活動を行い、本件製剤のうちの一定量は本件用途発明に係る用途に使用されるものとして販売されていたと認められるのであるから、被控訴人による本件用途発明の実施があったというべきであり、被控訴人の上記主張は採用することができない」と述べている。 |