知財高裁(平成18年11月21日)“内膜肥厚の予防、治療剤事件”は、「特許法35条4項(サイト注:現7項)所定の『発明により使用者等が受けるべき利益の額』は、使用者等が当該発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得することによって受けることが見込まれる利益をいうものであるから、使用者等が特許を受ける権利を承継した後に当該発明を実施したことによる利益を検討するに当たっても、当該発明を実施したことにより得た利益そのものではなく、そのうち使用者等が当該発明を排他的、独占的に実施したことに基づいて、通常実施権の行使による利益をどれだけ上回る利益を得ているかを検討しなければならない。これを本件についてみると、平成12年10月(サイト注:本件用途発明の実施を開始した時期)以降における本件用途発明の実施による本件製剤(サイト注:本件製剤のうち本件用途発明の用途に用いるもの)の売上額のうち、その排他的、独占的な実施に基づく売上額はいくらか(競業他社に本件用途発明の実施を禁止していることによって、通常実施権の行使による売上額に比して、これをどれだけ上回る売上額を得ているか)、その排他的、独占的な実施に基づく売上額のうち、本件用途発明による利益額はいくらか(その売上げに係る想定実施料収入はどの程度か)を検討して、本件用途発明の排他的、独占的な実施による利益を算定するのが相当である。そこで検討するに、・・・・被控訴人は、昭和63年4月から本件物質特許権の存続期間が満了した平成11年8月までの11年余の間、本件物質特許権の実施品である抗血小板剤として、シロスタゾールを有効成分とする本件製剤を独占的に販売してきたものであり、その後、他の医薬品会社により後発品が製造販売されているが、上記の独占的な販売の結果、本件物質特許権の消滅後も、被控訴人がシロスタゾールについて競業他社に対して依然として市場での優位な地位を保持していることが窺われ、本件用途発明の実施による本件製剤の売上げには、被控訴人がシロスタゾールについて既に獲得した市場での優位性に基づくところが多分にあるとみることができるから、被控訴人が本件用途発明を独占していること自体に起因する市場での優位性はさほど大きなものとは考えられないことなどを考慮すると、被控訴人の本件用途発明の実施による本件製剤の売上額のうち、競業他社に本件用途発明の実施を禁止していることに起因する分(排他的、独占的な実施による分)は、上記売上額の30%とみるのが相当である。また、本件用途発明は、シロスタゾールという既知の物質を『PTCA後やステントの血管内留置による冠状動脈再閉塞の予防・治療剤』として用いるという限定された用途に係る発明であること、被控訴人は、本件用途発明の用途に係る上記効能・効果について、薬事法14条所定の承認を受けていないことなどに照らすと、本件用途発明の排他的、独占的な実施による本件製剤の売上げに係る利益を算定するに当たって用いる想定実施料率(競業他社に本件用途発明の実施を許諾することを想定した場合の実施料率)は、売上額の3%と認めるのが相当である。そうすると、被控訴人が平成12年10月以降において本件用途発明を排他的、独占的に実施したことによる利益は、本件用途発明の実施による本件製剤の売上額の30%をその排他的、独占的な実施に起因するものとみて、これに想定実施料率3%を乗じて得られた額ということになる」と述べている。 |