知財高裁(平成18年11月29日)“シワ形成抑制剤事件”は、「本願の『特許請求の範囲』の『請求項1』の記載(サイト注:『アスナロ又はその抽出物を有効成分とするシワ形成抑制剤』)に、・・・・『発明の詳細な説明』の記載を総合すると、本願発明は、アスナロ又はその抽出物が優れたシワ形成抑制作用を有することを見い出したことによってなされた発明であって、『シワ形成抑制』という用途を限定した発明(用途発明)であると認められる。そして、本願発明の『シワ形成抑制』という用途が、その技術分野の出願時の技術常識を考慮し、新たな用途を提供したといえるのでなければ、発明の新規性は否定されるので、以下、本願発明の『シワ形成抑制』という用途が、新たな用途を提供したといえるかどうかという観点から判断する」、「『シワ』は、・・・・現象もそれが生ずる機序も、『皮膚の黒化、又はシミ、ソバカス等の色素沈着』とは異なり、また、・・・・美白効果を主に訴求する化粧料、とシワ、タルミなど老化防止を主に訴求する化粧料は、製品としても異なるものと認識されていたところ、引用発明は、・・・・色素細胞を白色化して、紫外線による皮膚の黒化若しくは色素沈着を消失させ又は予防する美白化粧料組成物であるから、当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が、本願出願当時、引用発明につき、『シワ』についても効果があると認識する余地はなかったものと認められる」、「被告は、引用発明の『美白化粧料組成物』を皮膚に適用すれば、『美白作用』と同時に『シワ形成抑制作用』も奏しているはずのものであり『シワ形成抑制作用』のような作用は、視覚や触覚のような五感で容易に知得できる作用であるから、『美白化粧料組成物』を皮膚に適用・使用した場合に、その使用者が容易にその効果を実感できるものであることを理由として、本願発明につき格別新たな用途が生み出されたとすることはできないと主張する。しかし、引用発明の『美白化粧料組成物』を皮膚に適用すれば、『美白作用』と同時に『シワ形成抑制作用』を奏しているとしても、本願の出願までにその旨を記載した文献が認められないことからすると、『シワ形成抑制作用』を奏していることが知られていたと認めることはできない」、「これまで述べたところを総合すると、当業者が、本願出願当時、引用発明の『美白化粧料組成物』につき、『シワ』についても効果があると認識することができたとは認められず、本願発明の『シワ形成抑制』という用途は、引用発明の『美白化粧料組成物』とは異なる新たな用途を提供したということができる」と述べている。 |