東京地裁(平成18年6月8日)“半導体不揮発性記憶装置の書き込み及び消去方法事件”は、「特許権者が、当該特許発明を実施しつつ、他社に実施許諾もしている場合については、当該特許発明の実施について、実施許諾を得ていない他社に対する特許権による禁止権を行使したことによる超過売上げが生じているとみるべきかどうかについては、事案により異なるものということができる。すなわち、@特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)を採用しているか、あるいは、特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか、A当該特許の実施許諾を得ていない競業会社が一定割合で存在する場合でも、当該競業会社が当該特許に代替する技術を使用して同種の製品を製造販売しているか、代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がないか、また、B包括ライセンス契約あるいは包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が当該特許発明を実施しているか、あるいはこれを実施せず代替技術を実施しているか、さらに、C特許権者自身が当該特許発明を実施しているのみならず、同時に又は別な時期に、他の代替技術も実施しているか等の事情を総合的に考慮して、特許権者が当該特許権の禁止権による超過売上げを得ているかどうかを判断すべきである」、「被告は、・・・・有力なフラッシュメモリの製造販売業者6社と包括クロスライセンス契約を締結し・・・・ていただけでなく、希望する企業には有償で実施許諾をする開放的ライセンスポリシーを採用しており、現にD社とは包括的ライセンス契約を締結していたものであること、さらに、本件第1特許発明の電子の蓄積及び引き抜きの方法は、NOR型フラッシュメモリにおける、複数ある代替技術の1つにすぎず、本件第1特許発明に代わる有力な代替技術が存在しており、本件各包括クロスライセンス契約を締結した相手方他社も、本件第1特許発明の代替技術を実施していたことからすれば、フラッシュメモリ業界の企業のうち、一部の企業において被告から本件第1特許発明の実施許諾を受けていない企業が存在していたとしても、その企業は、本件第1特許発明に代わる有力な代替技術を用いてNOR型フラッシュメモリを製造販売することができたのであるから、これらの企業が、被告から本件第1特許発明の実施許諾を得られなかったため、NOR型フラッシュメモリを製造販売することができなかったとか、被告が本件第1特許の禁止権の行使により超過売上げを得ていたと認めることはできない」、「原告は、特許発明の実施許諾・特許発明の実施の双方をしている場合、すなわち競合他社の一部には実施許諾し、同時に特許発明の実施もしている場合であっても、特許権者は、特許発明の実施許諾により実施料収入を得る一方で、それ以外の第三者に対しては実施をさせないという排他的地位を有しているから、独占による利益の算定が困難であったとしても、使用者が独占的利益を得ている以上、相当の対価が算定されるべきものである、特許発明の実施許諾をしているからといって、特許発明の実施についての売上げがすべて通常実施権に基づく利益であるとはいえない、と主張する。確かに、特許権者が競業他社の一部に実施許諾をし、他には実施許諾をしない方針をとっている場合には、他社に対しては特許権の禁止権を行使しているとみることができる。しかし、すべての競業他社が実施許諾を求めるような特許発明であるならば、一部の企業のみに実施許諾をし、他社には禁止権を行使しているとみることができるとしても、特許権者がすべての会社に実施許諾をする方針を採用しているにもかかわらず、代替技術があるため実施許諾を必要としない競業他社が複数社存在することはしばしばあることであり、すべての競業他社に実施許諾をしなければ、直ちに特許による禁止権を行使しているとか、特許発明の実施の一部において独占的利益を享受しているとかみることは相当ではない。本件のように、被告が開放的実施許諾の方針を採用しており、複数の有力企業に実施許諾をしていて、なおかつ、有力な代替技術も存在し、特許権者自らも特許発明に代わる代替技術を実施しているような場合には、競業他社の一部が本件第1特許発明の実施許諾を受けていないとしても、これをもって、これらの企業に対し本件第1・・・・特許の禁止権を行使し、これにより被告がその特許発明の実施について独占的利益を享受しているとみることはできない。原告の主張は採用することができない」と述べている。 |