東京地裁(平成8年92日)“熱硬化性樹脂組成物事件自社実施の場合、当該発明の実施品の売上高のうち、同発明につき第三者の実施を排除して独占的に実施することにより得られたと認められる利益の額、すなわち法定の通常実施権に基づく実施を超える部分(以下『超過実施分』という)について、第三者に発明の実施を許諾した場合に得られる実施料を算定することにより『その発明により使用者等が受けるべき利益』と認めるのが相当である」、「被告においては、本件発明2を実施して二液型のカラーフィルター用熱硬化性保護膜を製造販売しており、これを第三者に実施許諾して実施料を得ているわけではない。このような自社実施により被告が受けるべき利益の額は、第三者の実施を排除して独占的に実施したと認められる超過実施分を、第三者に許諾して実施させた場合に得られる実施料であり、超過実施分に実施料率を乗じることにより算定することができる」、「保護膜の分野において、被告は、少なくとも平成2年以前は、先発メーカーとして圧倒的な市場占有率を有していたものと認められる。この背景には、被告が顧客の要望に細やかに対応できる態勢であったことがあるとしても、その大きな理由は、他のメーカーには追いつけない被告における技術的優位性にあったというべきである。そうしてみると、近年では状況の変化がみられるとはいえ、被告が本件特許権2を有することにより、これまで、市場における他社の新規参入を困難にしていた効果を否定することはできないところであり、これらの事情を総合的に判断すると、本件発明2に係る本件製品の過去の売上高のうち、超過実施分の占める割合は、0%と認めるのが相当である」、「他方、将来分については、当面、・・・・直近の過去3年度の平均値の売上げがあるとしても、近時、競合他社との競争もあって、保護膜形成用材料についての被告の市場占有率がこの2年間弱のうちに急速に低下してきていることなど、・・・・本件発明2は陳腐化してきており、本件特許権2を有することによる、他社の新規参入を阻止する効果は、将来においては現在より小さくなっていくといわざるを得ない。よって、これらの事情を総合的に判断すると、本件発明2に係る本件製品の将来の売上高のうち、超過実施分の占める割合は、0%と認めるのが相当である」、「実施料率について、原告は、これを0%は下らないと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。社団法人発明協会『実施料率(第5版・・・・)によれば、有機化学製品の分野において、平成4年度から平成0年度までの実施料率は、イニシャル・ペイメントなしの条件で、5%あるいは5%という高率の契約も各1件ずつ認められるものの、最頻値は3%、中央値は4%である。また、イニシャルありの条件では、7%という高率の契約も1件あるが、最頻値は2%、中央値は3%とされている。よって、3%をもって相当な実施料率と認める」と述べている。

特許法の世界|判例集