東京地裁(平成18年9月12日)“熱硬化性樹脂組成物事件”は、「被告においては、従来からの合成ゴム、合成樹脂等の化学工業製品の製造販売等のほか、昭和45年以降、社内でファイン事業と呼称される高機能スペシャリティ品に係る事業分野へのシフトを図り、昭和59年ころから、液晶ディスプレイ等の製造に用いられる材料(表示材料)の研究開発をスタートした。ファイン事業の分野においては、とりわけ、研究開発部門と事業部門のコミュニケーションを良好にし、事業戦略のもとで効率よく新製品開発ができ、かつ、顧客の需要に応じてスムーズに商品供給ができる仕組みが重要であることから、この20年間、当期利益が落ち込んだ時期にあっても、研究開発費の大幅な削減を行わず、全事業部門の研究開発に力を入れてきた」、「被告において、研究開発のテーマ決定は、従来から培ってきた顧客との信頼関係により、情報を入手して将来性を検討した上で行われる。液晶ディスプレイのカラーフィルター材料開発についても、顧客から要求に関する情報を入手し、将来性を検討して、テーマ化が決定された。このように、被告の主導で開発のテーマ設定及び研究開始の決定をするものであって、原告ら研究員一個人が決めるものではなく、本件発明2についても同様である」、「原告らは、昭和59年ころから、被告の東京研究所などで液晶ディスプレイ用の材料の研究にあたっており、原告及びその部下らによって見出された本件発明2は、被告における研究開発の一環として取り組まれたものである。また、本件発明2は、原告以外の研究員が発明して被告が特許権を取得した本件発明1の改良発明である」、「被告は、研究に必要な機材、設備として、クリーンルームのほか、研究開発の初期段階から、顧客のLCDメーカーと同様の評価のできる機器の導入を行い、・・・・1台5000万円を超える微細領域の組成分析装置を設置して、材料の特性や品質の向上を図ってきた。そして、大量に消費される各種モノマー、感光性化合物、界面活性剤等が常に備えられ、フォトレジストなどの研究開発の結果、それらの特性に関する知識と経験により技術基盤が形成されて、研究部門内部の共通財産として維持されている」、「また、被告では、昭和62年7月に研究開発部門の組織を再編し、常時、十数名ないし20名の人員態勢を維持した。そして、ファイン事業分野での重要な要素技術の1つである感光性材料によるリソグラフィ技術を身につけた技術者が育っていた」、「さらに、特許発明等の権利化にあたっては、被告社内の特許部(知的財産部)が出願のための明細書作成に関する助言、権利化に至るまでの諸手続、先例検索等のバックアップ作業を行っている・・・・。また、被告においては、平成9年当時、担当者や出願スケジュールを決め、特許を計画的に出願し、他社の問題ある特許に対しては異議申立てを行うなどの取組みをしていた」、「他方、商品のグレード開発や個別のトラブル解決は、被告の顧客との間におけるきめ細かな対応を示すものであり、日常の研究活動の実践における研究員の努力のあらわれである。すなわち、顧客向けに開発して採用された商品であっても、顧客の工場で発生する予期せぬトラブルに対し、担当の研究員が迅速かつ的確に対応することが不可欠であり、トラブルの原因を分析し、対策を施し、改めて最適化に取り組み、技術データを提供することにより、顧客との信頼関係が維持され、開発商品の使用が継続される」、「原告は、研究開発を担当する東京研究所に所属し、表示材料の研究がその担当職務であり、他の研究員とともに、その職務として本件発明2を発明し、他方、管理職である主査(主任研究員)として処遇され、また、原告は、関係者全員に対する2度の表彰による報奨金として合計2万円前後を受領した」、「上記・・・・認定の被告の事業内容、被告の研究に関する人的物的体制、原告の職務内容、本件発明2がされた経緯、本件発明2の実施にあたっての被告の対応及び原告の処遇等の諸事情を総合的に勘案すると、本件発明2に関し被告が貢献した程度は、90%を下回ることはないものと認められる」と述べている。 |