知財高裁(平成9年35日)“テトラゾリルアルコキシカルボスチリル誘導体事件発明者と認められるためには、・・・・特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要であり、仮に、当該創作行為に関与し、発明者のために実験を行い、データの収集・分析を行ったとしても、その役割や行為が発明者の補助をしたにすぎない場合には、創作行為に現実に加担したということはできない。本件発明は、物質発明及び当該物質の特定の性質を専ら利用する物の発明(用途発明・・・・)であるところ、本件の用途発明(請求項5ないし8)は、既に存在する物質の特定の性質を発見し、それを利用するという意味での用途発明ではなく、物質発明に係る物質についてその用途を示す、いわば物質発明に基づく用途発明であり、その本質は、物質発明の場合と同様に考えることができる。本件発明に係る化合物に関し、控訴人は、生物系研究者として、その生物活性測定及びその分析等に従事していたものの、当該化合物の合成そのものを担当していたのがAやBらの合成系研究者であることは、当事者間に争いがない」、「控訴人は、目的とする活性を有する化合物を創製するには『合成→合成された化合物のスクリーニング→構造活性相関の検討による次なる合成の方向性の示唆→示唆された方向性に従った合成』というサイクルを何度も繰り返す必要があり、生物系研究者と合成系研究者は、一方の役割が主で、他方が従という関係に立つものではないから、本件発明に係る化合物の創製に対する控訴人の貢献は大きいと主張する。確かに、創薬(医薬品の発見、開発)は、一般に、@対象疾患の選択、A薬物標的(酵素、受容体、細胞等)の選択、Bバイオアッセイ(テスト系)の確立、Cリード化合物(目的とする薬物活性のある化合物)の発見、D構造活性相関の検証(スクリーニングテスト、Eファルマコホア(生物活性に必要で重要な官能基とそれら相互の相対的な空間配置を要約したもの。基本骨格)の同定、F標的との相互作用の向上、G薬理学的特性の向上、との段階を経て行われるものであり・・・・、合成された化合物のスクリーニングテストは、化合物の合成の過程において、不可欠かつ重要な役割を担うものであるということができる。しかしながら、前記判示のとおり、本件発明は、物質発明及び当該物質の特定の性質を専ら利用するという物の発明であり、本件の用途発明(請求項5ないし8)もその本質は物質発明の場合と同様に考えることができるところ、本件では、発明に係る化合物の合成そのものを担当していたのは合成系研究者であるから、生物系研究者である控訴人が本件発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したというには、単に本件発明に係る化合物の生物活性の測定及びその分析等に従事しただけでは足りず、その測定結果の分析・考察に基づき、新たな化合物の構造の選択や決定の方向性について示唆を与えるなど、化合物の創製に実質的に貢献したと認められることを要するというべきである」、「控訴人は、本件発明のきっかけとなるカルテオロールの抗血小板作用の発見、本件発明に至る経緯における重要な化合物の合成、化合物の創製の目標の設定のいずれにおいても、生物活性の測定及びその分析等に従事したにすぎず、本件研究の端緒を与え、化合物の構造選択・決定の方向性を示唆し、新たな研究目標を設定するなどの貢献をしたということはできない」、「控訴人が本件発明の技術的思想の創作行為に現実に加担したということはできず、控訴人を本件発明の発明者であると認めることはできない」と述べている。

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