知財高裁(平成9年39日)“燃料噴射弁事件「証拠・・・・によれば(ア)一審被告は、昭和5年の会社設立当初から継続して自動車用エンジンに関する研究を行い、燃料噴射弁については、昭和6年ころから直噴エンジン用の燃料噴射弁の開発を行ってきたこと(イ)一審原告は、昭和1年3月以降、ガソリンエンジン開発を担当する研究室に所属していたところ、本件特許発明に関する実験等を、上司であったMの許諾の下に、勤務時間中に、一審被告の有する施設を使用して行ったこと、が認められるのであり、一審原告が本件特許発明を行うに当たっては、一審被告の研究開発活動において蓄積されてきていた知識・ノウハウが大きく寄与しているものと推認することができる」、「証拠・・・・及び弁論の全趣旨によると、Iは、一審原告作成の本件届出書・・・・では特許を取得し得ないと判断し、本件届出書を大幅に書き換えて、本件明細書・・・・を作成し、本件特許権の取得に貢献したこと、一審被告は、本件特許権取得後、特許料を納付するなどして本件特許を維持してきたこと、が認められる。なお、Iが特許請求の範囲に構成要件Eを含ませることとしたのは、本件明細書の作成に協力した特許出願担当者の領域を超え、共同発明者としての行為・・・・であるものの、Iは、これ以外にも、一審被告の特許技術担当者として、・・・・本件明細書の作成に尽力をしているから、これを一審被告の貢献として考慮するのが相当である」、「証拠・・・・によると、一審被告の知的財産部の担当者は、トヨタ自動車及びデンソーと交渉し、実施許諾1及び2の契約を締結し、その結果、実施料収入が得られたものと認められ、このような事情は、本件特許発明によって利益を得るに際しての事情として考慮されるべきである。なお、一審被告は、平成5年から平成2年にかけて、一審被告において、人的物的資本を投下して直噴ガソリンエンジンの実用化のための基礎研究に従事し、その基礎研究の成果も相まってトヨタ自動車において本件特許発明の実施品を使用した直噴ガソリンエンジンの実用化に至ったものである、と主張する。一審被告が上記基礎研究をしたとしても、一審被告は、上記基礎研究については、トヨタ自動車からそれに見合う対価を取得しているものと推認することができるから、このような事情は、重要視すべき事情とは認められない。また、一審被告は、本件特許発明を実施した直噴エンジンにおいて最適な混合気形成及び燃焼を実現するためには、多くの技術が必要であるとも主張する。・・・・燃料噴射弁は、本件特許発明以外の様々な技術によって成り立っているものと認められ、本件特許発明を実施した直噴エンジンにおいて最適な混合気形成及び燃焼を実現するには、それらを含む多くの技術が必要であるとしても、そのことから、本件特許発明の価値が低いということはできない」、「本件における上記諸事情にかんがみれば、本件特許発明に関する一審被告の貢献度は原判決の判断と同じく0パーセントと認めるのが相当である」と述べている。

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