大阪地裁(平成9年49日)“ゴーグル事件同項ただし書の『販売することができないとする事情』としては、侵害品の価格、侵害品の販売ルート、競合品の存在、侵害品の譲渡数量に占める当該特許発明の寄与度等の事情を考慮することができると解するのが相当である」、「a 侵害品の価格について 本件原告製品は、本体価格2000円であり、原告製品は子供用ゴーグルでも1050円ないし1365円であるのに対して、被告製品は、本体価格が100円という極めて安価なものである。・・・・上記のような価格差からすれば、被告製品は子供用の玩具といってもよいものであるから、両製品の市場における競合の程度は極めて低いものと認められる」、「b 販売ルートの違いについて 被告製品は、いわゆる100円ショップ最大手の『ダイソー』で独占的に販売されていた製品である。本件原告製品のように、スポーツ専門店等で販売される場合であれば、購買者は、他のブランドのゴーグルとの機能、性能、価格、デザインにおける差異に着目してこれを購入するかどうかの意思決定をするのが通常であると考えられるが、100円ショップにおいて販売される場合には、消費者は『通常ではわずか100円では購入できない物が購入できる』という意外性を期待して買い物をする場合が少なくないため・・・・、スポーツ専門店等のスポーツ用品売場における消費者(通常は、特定の用品を購入することを志向して来店する消費者)の消費行動とは異なり、上記のような意外性ゆえに購入する消費者も一定数存在するものと推認されるし『ダイソー』の店舗数の多さによれば、機能以外の面に着目して被告製品を購入した消費者も相当数存在していたものと認められる。したがって、被告製品が『ダイソー』で販売されていたという事情は、特許法102条1項ただし書において考慮すべき事情であるということができる」、「c 競合品の存在について 平成7年当時のゴーグル市場における原告のシェアは7.6%であり、被告のシェアはほとんどゼロに近いものであったところ、ゴーグル市場の中のフィットネス用ゴーグルあるいはスクール用ゴーグルの市場において原告のシェアが特に高いといった事情は見当たらないから、本件原告製品が属するフィットネス用ゴーグル市場及びスクール用ゴーグル市場における原告のシェアも上記と同程度と見るのが相当である・・・・。そして、被告製品が市場に存在しなければ、実際に被告製品を購入した者が、本件原告製品を購入するか、その競合品を購入するかについては、他に特段の事情の認められない本件においては、それぞれのシェアに対応する割合でそれぞれの製品の購入に向かうと推認するのが相当である。したがって、被告製品が販売されなかった場合、原告は、実際に販売された被告製品の数量の7.6%について被告製品と競合し得る原告製品のフィットネス用ゴーグルあるいはスクール用ゴーグルを販売することができたと認められる一方・・・・、その余の2.4%は、本件原告製品を含む原告製品を販売することができなかったものと認められる」、「d 特許発明の寄与度について ・・・本件特許発明5は、すべて取付台部の後面側に属する部品についての技術的事項を内容とするものであって、ゴーグルの前面からは確認することはできないものである。また、被告製品は、シュリンク包装がされているため、消費者は購入するまで手に取ってこれを観察することができず、取付台部の裏側に着目して商品を購入することを想定することは困難である。・・・・仮に包装を開封して被告製品を手に取る場合があったとしても、その低価格さゆえに、消費者が注目するのは通常の使用に耐え得る構造であるかどうかや、デザインの好みといった点である場合が多いと考えられ、あえて鼻ベルトの裏側の構成に注目して購入する消費者が多いと想定することは困難である。そうすると、本件特許発明5に係る鼻ベルトの裏側の構成が、消費者にとっての購買動機となり得る場合は極めて少ないと認めるのが相当である」、「e その他の事情について 本件原告製品は、平成8年の原告のカタログには掲載されておらず、かつ、明示的に本件原告製品の後継品であると称する製品も掲載されていないことによれば、少なくとも平成7年当時にはさほど売上高の高い製品ではなかったと推認されるから、平成7年4月以降に被告製品の販売が開始されたことによって受けた影響は限定的なものであったと認めるのが相当である」、以上の事情を総合考慮すれば、被告製品の譲渡数量に相当する数量のうち、原告が販売することができなかったと認められる本件原告製品の数量を控除した数量は、上記譲渡数量の1%と認めるのが相当である」と述べている。

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