大阪地裁(平成9年76日)“エレクトレットコンデンサマイクロホンユニット事件本件考案は、いずれの請求項についても無効理由を有するといえるが、・・・・無効理由を構成する主たる公知技術が記載された松下発明公報は、・・・・ECM業界トップの松下電器産業が出願し、特許権を取得し、実施している発明に係るものであり、また被告がフロントエレクトレットタイプのECMを販売する際にそれとの牴触の有無やその拒絶可能性(有効性)を吟味した・・・・ことからしても、フロントエレクトレットタイプのECMの製造販売を企図する当業者であれば当然に検討の対象とするものであると認められる。そうすると、本件考案は、このような松下発明公報に記載された発明に、当業者の周知技術を適用して得られるものなのであるから、それが無効理由を有することは、当業者にとって比較的明らかなことであったと推認することができる」、日本国内で兼用タイプのECMの製造販売を行っているメーカーは、現在に至るまで松下電器産業と被告のみである」、このように他のECMメーカーが兼用タイプ(特にフロントエレクトレットタイプ)の製品市場に参入しない理由については、本件実用新案権が存在することが理由の候補としてあげられる。しかし、本件実用新案登録が松下発明公報と周知技術に基づく無効理由を有すること、及びそのことが当業者にとって比較的明らかなことは、先に述べたとおりであるから、その他のECMメーカーが真に兼用タイプの製品市場に参入しようという意欲を有していたのであれば、本件考案の存在にかかわらず実際に参入したか、本件実用新案登録の無効審判請求をしたか、又は被告に対し無効理由があることを指摘して廉価での実施許諾を求めるなど、何らかの動きに出たはずであると考えられる。もっとも、他社が特許出願をしていたり特許権等を有している状況の下では、たとえそれらに無効理由があると判断していたとしても、なおリスクを慮って製造販売を差し控えるということも考えられる。しかし、例えば現に被告は、KUFシリーズを開発するに際し、松下発明ほかの松下電器産業の特許出願との抵触の有無やその拒絶可能性を調査・判断しており、その結果、それらについて何ら公権的な判断がされていない段階であるにもかかわらず、拒絶可能であるとの自己の判断に基づいて、KUFシリーズの製造販売に踏み切っているが、このような態度が被告のみに特有のものとは思われない。加えて、本件実用新案登録は、松下発明に係る特許と比べて無効理由の存在が分かりにくいともいえないのであるから、やはり上記のとおり考えられるところである」、「以上の諸点を総合すると、被告が登録料を負担して本件実用新案権を維持してきたことは事実であるものの、他のECMメーカーがそもそもフロントエレクトレットタイプの製品市場に参入しなかった主たる理由は、松下発明に係る特許権の存在、兼用タイプの品質、製品市場自体の事業上の魅力に存すると考えられるのであって、当業者に比較的明らかな無効理由のある本件実用新案登録によって、他のECMメーカーの事業活動が抑制され、本件実用新案権によって被告に独占の利益があったとは認めるに足りないというべきである」と述べている。

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