東京地裁(平成19年7月5日)“後期段階炎症反応の治療用組成物事件”は、「特許法112条の2第1項にいう「その責めに帰することができない理由」は、本来の特許料の納付期間の経過後、さらに6か月間の追納期間が経過した後(特許法112条1項参照)の特許料納付という例外的な取扱いを許容するための要件であり、その文言の国語上の通常の意味、訴訟行為の追完を定めた民事訴訟法97条1項の『その責めに帰することができない事由』の解釈及び拒絶査定不服審判や再審の請求期間についての同種の規定(特許法121条2項、173条2項)において一般に採用されている解釈に照らせば、天災地変や本人の重篤のような客観的理由により手続をすることができない場合のほか、通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお追納期間内に納付をすることができなかった場合を意味すると解するのが相当である」、「原告は、本件特許権の年金管理をC事務所に委託していたものの、C事務所が特許料を支払うか否かについて原告の意思を確認するリマインダーを所定の時期に原告に送付せず、追納期間の末日の約1週間前に本件特許ファミリーの一部(本件特許権は含まれていなかった。)についてリマインダーを送付したにとどまり、原告は追納期間内にも特許料の納付ができなかったというものである。このように、C事務所は、本件特許権の年金管理を善良な管理者としての注意義務を尽くして遂行すべきところ、原告にかかる通知を行わなかったことについて過失があることは明らかである。そして、本件特許権の実質的権利者である原告は、本来自らなすべき特許権の管理を、自らの判断と責任において第三者に委託したのであるから、原告が本件特許権の管理を委任していたC事務所の過失は原告の過失と同視でき、万全の注意を払っていても特許料等を納付できなかったとはいえないことが明らかであり、『その責めに帰することができない理由』(法112条の2第1項)があるということはできない。なお、C事務所は、原告との間の委託関係を否定していることが窺えるも、仮に、委託関係が存しないのであれば、本件特許権の管理委託を適正に行わなかった点において原告の過失があることが明らかであり、『その責めに帰することができない理由』がないことは明らかである」、「原告は、特許管理を信頼性の高い外部組織に委ねる趨勢に照らせば、外部組織の選任監督に社会通念上相当の注意を払っている場合には、仮に外部組織の事情により事故が生じたとしても、特許権者側は社会通念上相当の注意を払ったのであるから、『その責めに帰することができない理由』があると主張する。しかし、たとえ信頼性の高い外部組織に特許管理を委ねた場合であっても、本来自らなすべき特許権の管理を、自らの責任と判断において、当該外部組織に委託して行わせたのであるから、当該外部組織の過失は、特許権者側の事情として、原告の過失と同視するのが相当であって、原告の主張は採用できない」と述べている。 |