東京地裁(平成20年2月29日)“ビベンジル類事件”は、「本件発明等取扱規則は、被告が従業員のした職務発明について特許を受ける権利を承継したときは、その発明をした従業者に対し、その対価として出願補償、登録補償、実績補償を支払うこと、このうち、出願補償の支払時期については出願した時点、登録補償の支払時期については特許権の設定登録がされた時点とすることを定めているものと認められる。他方、本件発明等取扱規則は、実績補償については、被告が、『特許権等に係る発明等を実施し』、『その効果が顕著であると認められた場合その他これに準ずる場合』に、その職務発明をした従業員に対し支給すると定めている・・・・。実績補償の支払時期が発明の実施の効果が顕著であることの認定といういわば被告の意思いかんによって左右されると解することは相当でないから、上記規定は、実績補償の支払時期を特許権等に係る発明等の実施開始時(『特許権等に係る発明等を実施し』と規定されていることから、特許発明の実施開始時、又は特許権の設定登録時のいずれか遅い時点)と定めているものと解するのが相当である(『その効果が顕著であると認められた場合その他これに準ずる場合』とは、支払時期を定めたものではなく、支給の要件を定めたものと解すべきである。)。このように解することによって、被告においては、特許権の設定登録がされた発明が実施された場合、自発的に又は従業者からの請求を受けて、実施の効果が顕著であると認めたときに実績補償の支払をし、一方、従業者においては、支払額に不足があると考えれば、特許法35条3項(サイト注:現7項)に基づく相当の対価の不足額を請求することにより、被告と従業者との利害の調整を図ることができるといえる」、「本件発明1の出願日は昭和56年8月20日、設定登録日は昭和63年11月10日であり、本件発明2の出願日は平成元年5月18日、設定登録日は平成6年4月11日 であり、本件発明1及び同2の実施開始日は、平成5年10月7日である。そうすると、本件発明等取扱規則により、本件発明1についての相当の対価の支払時期は、出願補償については出願時である昭和56年8月20日となり、登録補償については設定登録時である昭和63年11月10日となり、実績補償については、設定登録日よりも実施開始時の方が遅いため、実施開始時である平成5年10月7日となり、上記の各時点が消滅時効の起算点となる。また、本件発明2についての相当の対価の支払時期は、出願補償については出願時である平成元年5月18日となり、登録補償については設定登録時である平成6年4月11日となり、実績補償については、設定登録日の方が実施開始時よりも遅いため、設定登録日である平成6年4月11日となり、上記の各時点が消滅時効の起算点となる。なお、弁論の全趣旨によれば、被告は、原告に対し、昭和56年11月末日ころまでに、本件発明1の出願時補償金として1200円を、平成元年2月末日ころまでに、本件発明1の登録時補償金として3600円をそれぞれ支払ったことが認められるから、本件発明1に係る出願補償、登録補償についての消滅時効の進行は各支払によりそれぞれ中断し、上記各支払があった時点から再度消滅時効が進行を開始した」、「そうすると、原告の本件発明1に係る相当の対価請求権及び本件発明2に係る相当の対価請求権は、いずれも、原告が、被告に対し、その履行を催告した平成19年2月1日(・・・・なお、本件訴えは、同催告から6か月以内の同年5月18日に提起された。)までに、その時効起算点から既に10年以上が経過しており、消滅時効が完成したというべきである。被告は、原告に対し、平成19年2月13日ころ、消滅時効を援用する旨の意思表示をしたことが認められるから・・・・、原告の本件発明1に係る相当の対価請求権及び本件発明2に係る相当の対価請求権は、いずれも時効により消滅した」と述べている。 |