東京地裁(平成0年1日)“半導体ウエハの面取方法事件使用者等が、当該発明を他人に実施許諾せずに、本件のように自らが当該発明を実施している場合においては、これにより実際に得た売上高から通常実施権を行使することにより得られるであろう売上高を控除したもの(超過売上高)に基づく収益をもって『その発明により使用者等が受けるべき利益』というべきである。この超過売上高に基づく収益の具体的な算出方法としては、@当該発明を他人に実施許諾したと仮想し、その場合に得られるであろう実施料収入を算定するという方法や、A使用者等が超過売上高から得るであろう利益を直接算定する方法などが考えられるところ、本件においては、当事者双方の主張、立証の内容にかんがみ、@の方法によるのが相当と認められる」、本件においては、・・・・使用者等の独占の利益を算定するため、使用者等が競合他者に特許権の実施を許諾したと仮想する方法によるところ、そのような方法において超過売上高の割合を認定するには、使用者等が、当該発明を用いた製品を製造、販売し得る競合他者すべてに実施許諾して(以下、この実施許諾を受けたと仮想される競合他者を『仮想ライセンシー』という。)、現実に享受している独占の利益をすべて捨象したものとし、自らには、通常実施権に基づいて当該発明の実施製品を製造、販売することによって得られる利益のみが残存する状態を仮想する必要がある。そのような仮想の下、使用者等が獲得し得る当該発明の実施製品の売上高が同実施製品の市場全体における売上高(使用者等による当該発明の実施製品による現実の売上高を用いる)に占める割合がどの程度になるのかを仮想ライセンシーのそれとの比較による使用者等の技術力及び営業力の程度、市場全体の規模、性質及び動向、当該発明の実施品の性質及び内容等の諸要素に基づいて認定することにより、使用者等が仮想ライセンシーから取得すると仮想される実施料を算定する基礎となる超過売上高の割合を求めることが相当といえる」、被告グループは、・・・・総合的な技術の蓄積、顧客の改良要求に対する対応、アフターサービス等において表れる技術力及び営業力の面において優れた実績を有し、少なくとも、人的、物的規模においては、唯一の仮想ライセンシーであるエムテックを大きく上回るといえる。また、被告グループの面取機市場におけるシェアの変遷を示す的確な証拠はないが、300ミリウェーハ用面取機市場で100パーセント近いシェアを獲得するに至ったことについても、被告グループが、面取りの直前の工程で用いる切断機でも国内において高いシェアを占めていたことや、面取機の顧客である半導体ウェーハ製造業者自身の再編等により、●(省略)●企業体が高いシェアを占めるに至ったことをも、その要因として挙げることができる。以上のことからすれば、被告グループが、本件発明の通常実施権に基づいて本件面取機を製造、販売し、仮想ライセンシーであるエムテックと本件発明の実施品の市場を分け合っていると仮想した場合、その売上高の比率は、被告グループの方が優れているものと考えられる。もっとも、競合他者において、ヘリカル研削装置と同程度の研削面粗さ精度を持つ代替技術を利用していることを認めるに足りる的確な証拠がないこと、ヘリカル研削装置は、ヘリカル研削に特化したオプション仕様の装置であること、被告グループは、本件面取機のヘリカル研削機能が被告の保有する特許であると宣伝広告するなどしていたことを考慮すると、ヘリカル研削装置に係る本件特許権は、本件面取機の売上に一定の寄与を及ぼしたものといえる。以上の事情を総合的に検討すると、エムテックに対する実施許諾を仮想した場合に被告グループが通常実施権に基づいて獲得できる売上高の割合は、市場全体の売上高の0パーセント程度であると考えることができ、したがって、超過売上高の割合は、0パーセントと認めるのが相当である」、社団法人発明協会作成の『実施料率(第5版・・・・によれば、本件発明が属する金属加工機械分野における、平成4年度から平成0年度のイニシャルペイメントがある特許に関する実施料率の平均値は4.4パーセント、最頻値は5パーセント、イニシャルペイメントがない特許に関する実施料率の平均値は3.3パーセント、最頻値は3パーセントであることが認められ、・・・・諸事情、特に、本件発明の価値の程度を考慮すると、本件発明の実施料率は、5パーセントと認めるのが相当である」と述べている。

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