知財高裁(平成0年4日)“アルガトロバンの製造方法事件一審被告は、平成2年6月から平成1年9月(以下、当該期間を『自社実施期間』という)まで、本件発明を自ら実施して『ノバスタン注(サイト注:アルガトロバンの商品名)及びアルガトロバン原薬を製造、販売しており、この間の一審被告の売上げは、・・・・合計314億2140万円である」、「アルガトロバンは、大河内記念技術賞を受賞するなど高く評価され、・・・・一審被告の自社実施期間中の売上高は、第一製薬への原薬販売分を含めて、上記のとおり314億2140万円(年平均3億6000万円以上)であること、アルガトロバンの物質特許1、2及び用途特許の存続期間満了後における後発医薬品の市場占有率は0%程度に留まるが、これは、他の医薬品の場合と同様に、一審被告が第一製薬と共に平成2年6月から平成2年7月に後発医薬品が発売されるまで約0年間市場を独占していた結果、それ以降も先発品メーカーとして市場における優位な地位を保持しているためであると考えられることからすると、上記・・・・の売上高のうち、一審被告が競業他社にアルガトロバン関連6発明及び本件発明により得ることができた超過売上高(競業他社に発明の実施を禁止していることによる通常実施権の行使による売上高を上回る売上額)は、原判決と同じくその4割と認めるのが相当である」、「本件発明についての一審被告の独占的利益の算定方法としては、上記・・・・に認定した超過売上高に対し、@現実の利益率を乗じて算定する方式(利益率算定方式)と、A仮に本件発明を他社に実施許諾した場合に得られるであろう実施料率を乗じて算定する方式(仮想実施料率算定方式)が考えられるところ、原判決認定・・・・のとおり、自社実施期間において本件発明に係る一審被告の医薬事業部門における現実の利益率を認定することは困難であるから、本件においては仮想実施料率算定方式によるのが相当である」、「医薬品その他の化学製品の分野における実施料率は事例に応じて数%から0%までばらつきがあり、一般的な基準が確立しているとは認め難いところであるから、仮想実施料率を定めるとしても、類似事例等における実施料率その他の事情を総合考慮の上決するほかない。この点、本件においては、一審被告はジェネンテック社に対し、第1ライセンス契約に基づき米国及びカナダにおけるアルガトロバンの使用及び販売、すなわち、アルガトロバン原薬を製剤化し、これを販売する権利等を許諾し、その際、製剤に必要なアルガトロバン原薬は一審被告が全量供給するものとされたこと、また、ジェネンテック社から一審被告に交付される対価は、主として・・・・一時金及び・・・・ロイヤリティと・・・・アルガトロバン原薬の対価により構成されていることが認められる」、「上記原薬供給の対価は、ジェネンテック社が一審被告からアルガトロバン原薬の独占的供給を受けることに対する『ロイヤルティ、すなわち実施料相当分を含むものと解するのが相当である」、「本件発明は、従前の製造方法と比べて、製造工程が2工程短縮した点、精製が容易であり純度の高い化合物を合成することができる点、嵩高く立体障害性の高い化合物同士を効率良く円滑に縮合させることを可能にしている点に特徴がある製造方法に関するものであって、従前の製造方法の欠陥・問題点を解決し、医薬として使用できる純度の高い(9%以上)アルガトロバンを大量、安価に製造することができる画期的なものであり、そのため、本件発明の存在が他の後発医薬品メーカーの市場参入を思い止まらせ、旧製造方法又はそれに近い製造方法を採用している既参入後発医薬品メーカーに規模の拡大を思い止まらせる効果を有していると認められる・・・・。このような本件発明の意義を考慮すれば、実施料相当分の割合が少ないとは評価し難いのであって、これに・・・・第1ライセンス契約の内容、医薬品分野における実施料の実例、三菱ウェルファーマや他の医薬品業界における売上高営業利益率等を併せて総合考慮すれば、上記原薬供給の対価に占める実施料相当分の割合は5%と認めるのが相当である(原判決は3%とするが相当でない。)」、本件発明に関連する発明として、物質特許1、2、用途特許、中間体製法特許1〜3からなるアルガトロバン関連6発明があり、それとの関係において本件発明の寄与度を定めるのが相当である。そして、上記のとおり、本件発明は医薬品としてのアルガトロバンを純度9%以上という高純度で、かつ工業的な規模で製造することができる方法として画期的なものであり、アルガトロバンを製造・販売する上で非常に重要な価値のある発明であり、我が国において特許出願中であるものの米国や欧州において既に特許化されていることからすれば、本件発明が物質特許ではなく製法の発明であることや、我が国において未だ設定登録により権利化されていないこと等を考慮に入れたとしても、自社実施期間における本件発明の寄与度は0%を下らない(原判決と同旨)ものと認めるのが相当である」、「ここで問題とする発明の寄与度とは、ある発明に加えてこれに関連特許が総体となって独占的な利益が生じている場合に、当該利益に占めるある発明それ自体の寄与度をいうものである(サイト注:したがって、ある発明に係る特許権が消滅した場合は、ある発明は独占の利益には寄与しなくなるので寄与度は零となり、関連特許がすべて消滅した場合は、ある発明のみが独占の利益に寄与するので寄与度は100%となる」と述べている。

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