知財高裁(平成0年4日)“アルガトロバンの製造方法事件一審被告が医薬事業を開始したばかりの揺籃期において、一審原告の高い能力及び技術が本件発明の完成に大きく貢献していること、他方、一審原告は、昭和0年に化学会社である一審被告に入社して以来、研究の仕事に従事し、昭和7年からは合成班のグループリーダーとして創薬研究に従事し、本件発明は一審原告の職務の遂行そのものの過程でされたものであること、一審被告は本件発明の権利化にさほど熱心ではなかったところ、一審原告が特許出願を勧め、自ら明細書等の作成を行い、出願審査の請求も、請求期間満了直前に一審原告が催促して行わせたものであること、他方、一審原告は、一審被告に蓄積されていた化学会社としての知識及び技術並びに物質特許1、2及び用途特許等を利用し、一審被告の設備を使用して、一審被告の研究者等のスタッフの助力を得て、本件発明を完成したものであり、・・・・新薬の研究開始から承認取得は、・・・・様々なステップから構成され、それらのステップに応じた業務内容が決められており、研究開発や上市、さらには上市後の対応までも含めて、多くの専門家が関わっていること、実際に、一審被告の米国企業との独占販売契約(第1ライセンス契約等)の締結等、アルガトロバン事業の販路拡大は一審被告の経営努力によるところが大きいことが認められる。このように、本件発明を含むアルガトロバン事業の事業化、販路拡大ないし成功には一審被告の経営努力によるところが大であるということはできるものの、・・・・本件発明は極めて有効かつ価値の高いものであり、このような発明が成立するに当たり一審原告が課題の設定・課題の解決に果たした役割等の事情に照らせば、従業者たる一審原告の上記のような企業内での職務と地位を考慮に入れたとしても、本件発明における一審原告の貢献を過小評価することも相当でない」、「また、平成0年版厚生白書によれば、1つの新薬の開発には0年〜8年を要し、150〜200億円を要するとされていること、日本製薬工業協会の2005年のパンフレット・・・・によれば『多くの新薬の候補化合物を合成しても新薬の成功確率は、,324分の1』であり『1成分当たりの研究開発費は、日本の調査データによると500億円にのぼ』り、臨床試験に到達したものでも、最終的に製造承認がされる確率は1〜3%であること、平成4年の総務省『化学技術研究調査報告』によれば、研究費の対売上高比率は全産業が3.6%であるのに対し、医薬品産業は8.1%であること・・・・、新薬の探索研究は、合成研究者が単独で実施できるものではなく、薬理研究者、薬物動態研究者、安全性研究者との協力体制が必要であり、実際の研究活動では正確かつ安定した評価結果を得るための測定系を作成することは無論のこと、より人疾患に近い試験系を組み立てる能力も要求されること・・・・が認められ、これによれば、医薬品業界における企業の成功確率は決して高いものではなく、したがって、一審被告の貢献度を考慮する上でそのような事情は十分考慮に値するというべきではあるが、他方で、本件発明は一審被告が医薬事業を開始したばかりの揺籃期に完成されたものであり、必ずしも上記のような一般論が全面的に妥当するものともいい難い」、「なお原判決は、創薬事業においては失敗に終わる研究開発が多数存在するという事情があることから、相当対価の算定に際し『成功確率による減額』を行うべきであるとするが、上記のような事情は、独立の減額事由ではなく、一審被告の貢献度を考慮する際の1要素と把握すべきものである」、「以上述べた、本件発明がなされるに至った経緯、一審原告がこれに関与するに至った事情、本件発明の他の発明との比較における位置付け、一審被告の販売努力の内容、新薬開発における研究開発の事情等を総合的に考慮すると、一審被告の貢献度は0%と認めるのが相当である」と述べている。

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