知財高裁(平成20年6月12日)“被覆硬質部材事件”は、「原告は、本件発明は『製造方法』の発明ではなく、『物の発明』に係るものであり、特有の製造方法は必要ないので、『本件明細書に当該Ia値が2.3以上のものを得るうえで特有の製造方法が記載されていない』として、本件明細書には当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていない、とした審決の判断は誤りである旨主張する。ところで、特許制度は、発明を公開する代償として、一定期間発明者に当該発明の実施について独占的な権利を付与するものであるから、明細書には、当該発明の技術内容を一般に開示する内容を記載しなければならないというべきであって、旧36条4項や現行特許法36条4項1号・・・・のとおり規定するのは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をできる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからである。そうであるから、物の発明については、その物をどのように作るかについて具体的な記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できる特段の事情のある場合を除き、発明の詳細な説明にその物の製造方法が具体的に記載されていなければ、実施可能要件を満たすものとはいえないことになる。したがって、本件発明は、『物の発明』であるから『製造方法』の開示は必要がないとの原告の主張の見解は正当ではないことになる」と述べている。 |