大阪地裁(平成1年17日)“衣類のオーダーメイド用計測サンプル事件被告がHMS商品について平成6年9月ころに販売政策を変更してその販売を抑制し、平成0年2月をもってその販売を打ち切ったところ、その販売政策は経営判断として不合理とはいえないから、相当の対価の額の算定上、被告の受けるべき利益の額には平成0年2月以降のHMS商品の販売による利益は考慮されないこととなる。ところで、無効審決の確定により、特許権は初めから存在しなかったものとみなされる(特許法125条本文。しかし、無効審決が確定するまでは、たとえ当該特許に無効理由があるとしても特許権は一応有効なものであって、事実上の独占力を有するものとして取り扱われる。したがって、仮に、本件各特許について上記販売打切り後に無効審決が確定したとしても、そのことは、直ちに、それまでに被告の得た利益の額に影響を及ぼすものではない。本件においては、口頭弁論終結時点において本件各特許に係る無効審決は確定していない。被告は、ライセンスの交渉を行う場合に無効理由の資料を収集することは一般的に行われているから、明確な無効理由が存在する場合には、ライセンス契約を行うのは、単にトラブルを避けるといった意味しかなく、また、無効理由が存在するのではないかという資料が存在する場合にもライセンスを受ける側にその事情は有利に働いてライセンス料が低廉化するというのは常識であるとして、本件各特許には無効理由が存在しているから相当対価は存在しないか、極めて低廉なライセンス料率にしかなり得ないと主張する。確かに、ライセンス交渉の対象特許に無効理由が存在することが同交渉の当事者双方の共通の認識になっている場合には、このことが同交渉において特許権者に不利に働き、ライセンス料が低率化することは考えられる。しかし、本件各発明について被告が主張する無効理由は、いずれも進歩性欠如(特許法9条2項違反)を理由とするものであるところ、本件で被告が証拠として提出している引用例の内容、本件各発明との相違点等に照らし、進歩性の欠如が一見して明らかであるとは認められない。このような場合、ライセンスを受けようとする者が、ライセンス交渉を自己に有利に進めるべく、上記引用例を挙げながら対象となる発明が進歩性を欠き特許無効理由が存在する旨を相手方に主張したとしても、特許庁のした無効審決とか、侵害訴訟において裁判所が特許法104条の3の抗弁を理由ありと認めて判決をした場合等の公権的な判断の裏付けもない状況の下で(本件においては、本件口頭弁論終結日現在、いまだ本件各特許の無効審決は確定していない。)、ライセンス料を低廉化させられ得るとはにわかに考え難い。したがって、被告の上記主張は採用できない」と述べている。

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