東京地裁(平成1年0月8日)“経口投与用吸着剤事件被告は、原告が本件発明を実施していないことから、特許法102条2項は適用されないと主張する。確かに、同項は、損害額の推定規定であり、損害の発生までをも推定する規定ではないため、侵害行為による逸失利益が発生したことの立証がない限り、適用されないものと解される。もっとも、侵害行為による逸失利益が生じるのは、権利者が当該特許を実施している場合に限定されるとする理由はなく、諸般の事情により、侵害行為がなかったならばその分得られたであろう利益が権利者に認められるのであれば、同項が適用されると解すべきである。そして、弁論の全趣旨によれば、被告製品は、腎疾患治療薬(カプセル剤及び細粒剤)である原告製品の後発医薬品として製造承認を受け販売されているものであり、被告製品が製造販売されることで新たな需要を生み出すものではなく、腎疾患治療薬の市場において原告製品と競合し、シェアを奪い合う関係にあること、球状活性炭の腎疾患治療薬における原告製品のシェアが高いことが認められ、被告製品がなかったとした場合に原告製品ではなく他の後発医薬品が売れたであろうとの事情を裏付ける証拠もない本件においては、被告らによる侵害行為がなければ得られたであろう利益が原告に認められるのであって、本件には特許法102条2項が適用されるものと解するのが相当である」と述べている。

特許法の世界|判例集