知財高裁(平成1年1月9日)“リチウム二次電池事件特許を受ける権利の共有者の代理人が行った審判請求において、それが共有者全員の『共同して請求』したものに当たるかどうかについては、単に、審判請求書の請求人欄の記載のみによって判断すべきものではなく、その請求書の全趣旨を合理的に探求し、当該特許出願について特許庁側の知り得た事情等をも勘案して、総合的に判断すべきものである。共有に係る特許を受ける権利についての審判請求のように、共有者の全員が共同して請求することが法律上の要件とされている場合において、共有者の全員それぞれからそのための委任を受けている代理人が、共有者の一部の者のためにのみ審判請求をし、その余の共有者のためにはこれを行わないときは、共有者全員の利益を害することになり、自ら審判請求の手続要件の欠缺をもたらし、拒絶査定を確定するにも等しいのであるから、代理人がこのような行動に出ることは合理的にみて考えられないことである。そうすると、代理人がこのような不合理な行為を行うのもやむを得ないとする特段の事情がない限り、当該審判請求は、たとえ、外観上共有者の一部の者のためにのみする旨の表示となっている場合であっても、実際には、共有者の全員のためにしたものと推認するのが相当である」、本件においては、・・・・原告らは、いずれも日本国内に住所又は居所を有しない韓国法人であり、K弁理士は、原告両名から拒絶査定不服審判の請求を含む包括的な事項についての代理人であった。そして、本件拒絶査定の書面には原告三星(外1名)及びK弁理士の記載があったところ、K弁理士は、本件審判請求書に、請求人欄には原告三星のみの識別番号及び名称を、代理人欄にはK弁理士の名前を記載し、原査定を取り消し本願は特許をすべきものであるとの審決を求める旨の記載をしたものである」、このような事実関係の下においては、K弁理士による本件審判請求書を受理した特許庁としては、K弁理士が、原告両名のために審判を請求する代理権を有する者であることを知り得たのであるから、代理人がこのような不合理な行為を行うのもやむを得ないとする特段の事情が認められない本件においては、本件審判請求書の記載上は、原告チェイルのためにすることが明記されてはいないけれども、実際には、原告両名のためにしたものと推認され、代理人による本件審判の請求の法律的効果は、本人たる原告両名に帰属すると解すべきである」、そうすると、本件審判の請求は、原告両名によるものであるにもかかわらず、本件審判請求書の審判請求人の欄には原告三星のみが記載されていたのであるから、特許法131条1項の規定に定める方式についての不備があることになる。よって、審判長としては、同法133条1項に基づき、相当の期間を指定してその表示の補正をすべきことを命じるべきであり、補正を命じれば、K弁理士において原告チェイルの記載を追加したものと推認される。しかるに、審判長は、上記補正を命じることなく、直ちに本件審判の請求を却下したものであって、本件審決は違法である」、被告は、審判請求書の審判請求人を追加又は変更することは、その要旨を変更するものであると主張する。しかし、本件審判請求書の記載上、原告チェイルのためにすることが明記されてはいないけれども、その代理人による本件審判の請求の効果が本人たる原告両名に帰属するものと解すべき本件において、審判請求書の審判請求人を追加することは、単に方式の不備を補正することにすぎず、要旨変更には当たらないと解するべきである」、なお、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行うべき弁理士(弁理士法3条)としては、特許を受ける権利の共有者全員の代理人となった場合において、共有者のためにその審判を請求するには、当初から、特許法132条3項の規定を遵守して、審判請求書の請求人欄に当事者として共有者全員の氏名を記載してすべきものであることを付言する」と述べている。

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