知財高裁(平成1年1月6日)“衣類のオーダーメイド用計測サンプル事件使用者等が職務発明について特許を受ける権利を承継して特許を出願した場合、これにより使用者等が独占の利益を受けることができる期間の始期については、権利承継時からとする説・出願公開時からとする説・特許登録時からとする説等が考えられ、一審原告は権利承継時からを主張し、一審被告は特許登録時からを主張するが、当裁判所は、以下に述べるとおり、・・・・本件各発明については、独占の利益が権利承継時から発生すると解することはできず、法的に補償金請求が可能となる出願公開時から限定的意味での独占の利益が発生し、差止請求権の行使も可能となる特許登録時からは完全な意味での独占の利益が発生すると解する。すなわち、権利承継時から出願公開時までについてみると、権利承継により使用者等は当該職務発明を直ちに利用できるようになるのであるから、上述した独占の利益は権利承継時から取得するのが原則であるが、譲受人たる使用者等が自らなす同発明の実施につき特段の秘匿をせず、その実施が特許法9条1項2号にいう『公然の実施』に該当すると解されるときは(ただし、上記9条の定める特許取得要件との関係で、上記公然実施は使用者等が特許出願した後であるのがほとんどと思われる。)、これを見た第三者(他社)は、上述した出願公開時までは、法的に全く自由に当該発明を利用することができるのであるから、自己実施との関係では、当該発明が特段の独占力を発揮しているということはできず、この公然実施期間は独占の利益算定期間から排除すべきものと解される。そして、・・・・本件各発明の内容からすると、本件各発明を実施することによって、その内容は、顧客等に直ちに知られることは明らかであるから、・・・・出願公開時より前の権利承継時から独占の利益を有するということはできない。次に、特許の出願公開がされてから登録までの間については、特許出願をした使用者等が補償金を請求するためには、原則として、当該発明の内容を記載した書面を提示して警告をすることを要し、かつ、その警告後に当該発明を実施した者に対してのみ請求し得るにすぎず(警告後に補正がされたような場合には再度の警告が必要になる場合もある[最高裁昭和3年7月9日・・・・判決・・・・参照])、また、当該警告をしない場合においては、出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って当該発明を実施した者に対してのみ請求し得るにすぎず、請求し得る金額も、当該発明が特許発明である場合にその実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額に限られている(特許法5条1項。このように特許の出願公開後登録までの間について使用者等が行使し得る権利の内容は、登録後に行使し得る権利の内容と比べて限定されたものであるが、上記の補償金請求のための要件を具備することはそれほど困難なことではないと考えられ、そうすると、出願公開後特許登録までの間における独占の利益の額は、特許登録後における独占の利益の額の3分の2をもって相当と認める。なお、特許登録後においては、譲受人たる一審被告が完全な意味での独占の利益を取得することにつき当事者間に争いがない」、「一審原告は、@使用者は、特許を受ける権利を取得したことによって、将来特許権を取得して、補償金請求をするのみならず、差止等請求もなし得る地位を獲得したのであるから、その時点から独占力が発生している、A特許ライセンスは特許登録前から行われることが多いところ、一般に登録の前後で実施料の額に変化が生じることはなく、また、市場における発明実施品の売り上げが特許登録の前後で変化をすることもないと主張するが、上記のとおり、特許の出願公開後登録までの間について使用者等が行使し得る権利の内容は、登録後に行使し得る権利の内容と比べて限定されたものであるから、その独占力に違いがあるものであるし、また、ライセンスの実態が一審原告主張のとおりであるとしても、法的な独占力に違いがある以上、独占の利益の額を登録の前後で同じと解することはできない」と述べている。

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